第36話
――考え得る限り、最悪の展開だった。
彩羽は花屋から聖杯を一つ奪い、逆に花屋は彩羽から毒杯を受け取ってしまった。
「折角『本のページ当て』に勝って、相手の聖杯を奪えるチャンスだったのに、よりによって毒入り杯を引いてしまうだなんて……」
「……いや、マズイのはそれだけじゃない。もっとマズイのは、花屋のドクロ杯戦術はもう完全に意味を成していないことの方だろう」
躑躅森がそう言って、小さく舌打ちする。
「……躑躅森さん、それどういうことですか?」
「花屋のドクロ杯戦術の狙いは、相手にドクロ杯を『チェック』させることにあった。実際には何も入っていない杯にドクロの絵を書いておくことで警戒させ、相手に『チェック』を使わせる。その結果、厚本に2つの毒杯の
「……えーっと、でも花屋君の方も毒杯の位置はまだ2つともバレてないですよね?」
「厚本からすれば、もう毒杯の位置を探る必要がないんだよ。あと1つ聖杯を奪った時点で勝ちが確定するのだからな。むしろ、次に『チェック』を使用して調べた杯が空だった方が望ましいくらいだろう」
「……うーん」
考えれば考える程、花屋の方が劣勢である事実が浮き彫りになってくる。
花屋にこの状況をひっくり返す、逆転の手は残されているのだろうか?
「それじゃあ、『本のページ当て』クイズ、三問目行くっすよー」
馬酔木が小脇に抱えているのは、今度は広辞苑第七版である。箱から取り出してパラパラとページを捲り、本の最後のページに栞を挟み込む。
「栞を挟んだページをフリップボードにお書きくださいっす」
馬酔木の「せーの」声に合わせて、花屋と彩羽が同時に数字を見せ合う。
――花屋が『2799』。
――彩羽が『3215』。
「正解発表っす。正解は3215ページ。厚本さん、花屋君から聖杯を一つ奪ってくださいっす」
「…………馬酔木、貴様、
躑躅森が馬酔木を鋭く睨み付ける。
「おやおや、怖い顔して。何のことっすか? 躑躅森先輩」
馬酔木が
「ルール説明で『ミニゲーム』を然程重要ではないかように印象付けて、そっちに有利な『ミニゲーム』を僕たちに認めさせたな?」
「いやァ、とんだ言い掛かりっすねェ。そちらが自分の説明にどんな印象を持とうが、そんなことは知ったこっちゃないっす。こっちはきちんと事実をお伝えした筈っすからねェ。その上で、『ミニゲーム』はこちらで決めていいことを了承したのはそちらじゃないっすか。それを後になってからネチネチと。他人を責める前に、まずは自分の迂闊さを恥じるべきじゃないっすかァ?」
「……ぐッ」
「まァまァ、馬酔木君、そう先輩を苛めないであげてよ」
彩羽がそう言って馬酔木を
「事実、『本のページ当て』は私に有利なゲームなんだし。何せ、私はこの図書室にある本なら、全ての本のページ数を記憶しているのだから」
「……なッ!? じゃあ二問目で花屋君が厚本さんに勝ったのは?」
「あれはわざと負けてあげたんだ。どうせ聖杯を1つ取られたところで、後のゲームを落とさなければ花屋君が私に勝つことはできないしね。それに勝負があまりにもワンサイドゲームだと、見ている方も退屈でしょう?」
「…………」
――何ということだ。
それが本当なら、このゲームは彩羽にとって有利どころの話ではない。
花屋は最初から勝ち目の薄い勝負をさせられていたことになる。
「だけど馬酔木君が説明した通り、『ミニゲーム』の勝敗
「……ふん、あまり僕をなめるなよ。この『勝利の毒杯』というゲーム、『チェック』を使って毒杯の位置を探り当てるか、『チェック』を温存したまま空の杯を引くことができれば、毒杯を2つ取って負けることはない。つまり、聖杯を奪う側にとって圧倒的に有利なゲームではないか」
「……えーと、2つの毒杯の位置が片方でもわかれば、致死量の毒を貰うことはないのは理解しましたけど、『チェック』を温存したまま空の杯を奪えば死なないというのはどういうことですか?」
わたしは躑躅森の発言について質問する。
「現在、厚本は花屋から聖杯を1つ奪った状態だ。青い聖杯は残り4つ。このうち、毒杯は2つあることになる。厚本が『チェック』を使用して4つの杯のどれかを調べて、空の杯を確認する確率は2分の1。『チェック』した杯が空なら、迷わずそれを奪えば勝ちなのはさっき説明した通りだ。『チェック』した杯が毒入りだった場合、厚本はそれ以外の杯を選ぶことになるが、その時点で毒杯を選ぶ確率は3分の1。そこで運悪く毒杯を取ってしまっても、既にもう一つの毒杯の位置は把握した後だから、『本のページ当て』クイズで負けなければ必ず勝つことができるというわけだ」
「……ちょっと待ってください。それじゃあ、もう花屋君に勝ち目は残っていないじゃないですかッ!?」
「ああ、そうだ。たった今、この瞬間、花屋の敗北が確定した」
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