第27話
花屋が『金の剣』を持って樽の前に移動する。どうやら、本当に決着を付けるつもりのようだ。
「今思えば、卍山下先輩の言動は最初からおかしかったのです。ゲーム開始前に先攻後攻を決める際、どうして10万円もの大金を投げ打ってまで先攻を取りに行ったのでしょうか?」
「……いや、それは花屋君だって同じじゃない。君がこのゲームは先攻の方が有利だって言って、ジャンケンで決めようとした。だから卍山下先輩は仕方なくお金で先攻を買い取ることにしたんじゃないか」
わたしは花屋にそう反論する。
「ええ、その通りです。確かにこのゲームは攻撃回数の多い先攻に有利ではあります。ですが、それで全てが決まるというわけでもありません。先攻を取ったところで、最初の攻撃を外してしまえば、そのアドバンテージは後攻に移ってしまうのですから。しかし、卍山下先輩にはどうしても先攻を取らなければならない理由があったのです」
花屋が樽の周りをぐるりと一周歩く。
樽の中のスピーカーから聞こえる卍山下の鼓動は、少しずつテンポを上げていた。
「次に妙だと感じたのは、僕が『金の剣』に触れたとき、一瞬だけ卍山下先輩の心音に変化があったことです。その後、『金の剣』を全ての穴に近付けましたが、それ以降は心音に全く変化はありませんでした。僕は最初、卍山下先輩は『金の剣』で『急所』を刺されることに恐怖を感じたのだと思いました。しかし、先輩の鼓動が大きくなったのは僕が『金の剣』を手に取ったときだけで、その後どの穴に狙いを定めてみても動揺するどころか、心音は元通りに落ち着いていきました」
確かに卍山下が『金の剣』で負けることを恐れていたのなら、『金の剣』で『急所』を狙われそうになったときに心音が反応しないのは辻褄が合わない。
「つまりはこういうことです。卍山下先輩は僕が触れた『金の剣』に対してはつい動揺してしまったものの、それを自分の『急所』に刺されることについては全く心配していなかったのです。何故なら、今現在樽に空いている全ての穴がハズレであることを知っていたのですから」
花屋はそう言って、既に①の穴に突き刺さっている『金の剣』を引き抜いた。
「……あッ!?」
①の穴から引き抜かれた『金の剣』は何と先端の部分が2センチ程欠けていた。
「卍山下先輩が是が非でも先攻を取りたかった理由はこれです。初手に自分の『急所』の穴に、剣先をへし折っておいた『金の剣』を突き刺すことで、『急所』の穴を塞いでおいたのです。まさか最も高額な『金の剣』で自分の『急所』を塞ぐとは、普通考えません。卍山下先輩の心音が変わらなかったのは、自分の『急所』が『金の剣』によって安全に守られていたからです。ですが、このように『急所』を剥き出しにしてしまえば……」
先程まで落ち着いていた卍山下の心音が、今は早鐘を打つように鳴り響いている。
「……や、やめ」
「いいえ、これで
花屋が自分の『金の剣』で、①の穴を貫いた。
すると、樽の上部にセットされていた太眉角刈りの人形が、天井近くまで高く飛んでいった。
「……
「卍山下先輩、真剣勝負でイカサマに頼るのは脆弱な精神の現れだと仰いましたね? 正にその通りの結果となりました。あなたはただの臆病で嘘つきな卑怯者です」
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