第3話
まず両親。父親はモラハラセクハラ常習者の屑だった。実の娘の前でも、聞くに堪えない下品な会話を好むクズで、これまでも手を出されそうになったメイドを何人逃がしたか分からない。しかし父は外面が良いせいで社交会では人格者として認められており、クズっぷりを訴えても一笑に付されるのは目に見えている。
母親はそんな父親の一番の被害者なのだが、「酷い事をされても耐えて、夫に尽くす自分」に完全に酔っている。顔を合わせれば「いかに酷い浮気をされたか」を幼いローズに切々と語ったかと思えば、「あなたは子どもだからいいわよね」と訳の分からない嫉妬を向けてくる。ここ数年はローズの反応が鈍くなったので「仕方なく愚痴を聞いてもらったら肉体関係になってしまった」と娘を理由に若い男を囲い始めた。
そんな母親に対して父も当てつけのように愛人を増やす無限ループに陥っている。
なのに別れる気配は全くない。
こんな両親の精神的SMプレイに、ローズとサリーは散々振り回されてきた。
一方兄のグラズは跡取りということもあって、両親に溺愛されて育った。お陰で父親のモラハラセクハラ気質をしっかり受け継ぎ、これまたどうしようもない馬鹿息子に成長した。
そして何より面倒だったのは、婚約者である王太子ダニエル・バリルだ。
彼は兄を上回る酷いモラハラ気質の人格破綻者だったのである。
ただ激高しやすい兄とは違い、ダニエルはどこまでも冷徹でねちっこい。顔も頭も良い彼は、両親である国王と王妃からは優秀な跡継ぎと認められており、国民からの人気も高い。
しかしその内面は、酷く歪んでいる。
標的を定めるとチクチクといびり倒し、心が破壊されるまで徹底的に追い詰めるのだ。標的となった相手に非があるなしは関係なく、単に遊び半分で人を精神的に壊すのだからたちが悪い。
彼に仕えた多くの優秀な侍従や大臣が心を病んで城を去っていくのをローズは見てきた。
(ビジュアルがいいから、余計やってることがエグく感じるのよね)
こんな男の妻になるくらいなら断罪されて追放ルートが天国だと思ったローズは、婚約が結ばれた直後すぐさま行動に出た。
まず幼いが賢い妹にだけ「自分には前世の記憶がある」と話し協力を頼んだ。
最初はサリーも戸惑っていた。だが両親と兄の横暴にうんざりし、更に気紛れに屋敷を訪れる王太子の言動から胡散臭さを感じ取っていた事もあって、この屋敷にいては自分にも姉にも未来は無いと判断してくれた。
それから先は、特に障害はなく進める事ができた。
次にローズは、屋敷に仕える使用人達を買収した。
金はドレスや宝石を売って工面した。幸い公爵家には腐るほどドレスはあったので、新作のドレスや宝飾品を売り込みに来る商人に「いらないから買い取って」と言えば、それなりの値で引き取ってくれる。公爵夫妻ではなく娘についた方が得だと使用人達に理解させたローズは、次に彼らの仕事を褒めまくった。
普段から公爵とグラズのモラハラで疲弊していた使用人達は、ローズの優しい言葉一つで感激の涙を流すほどだった。
とはいえ彼らの仕事ぶりは公爵家で通用する一流のものなので、褒めるのは当然とも言える。だから重箱の隅をつつくように家令達を罵倒する父の嫌みったらしい言葉はただ不愉快でしかない。
そんな訳で、使用人達が金を渡さずともローズたちに味方してくれるようになるまでそう時間はかからなかった。
こうして使用人達の信用を得た後、ローズはサリーに「癇癪」を演じるように指南したのだ。これは自分が断罪された後、サリーの処遇を見越しての計画である。娘を駒としてしか見ていない両親は、妹の幸せなど考えず、ろくでもない相手に嫁がせるだろう。そうはさせないためにあえて社交会にも出せない「ダメ娘」を演じさせれば、ローズの追放に同行させると考えたのだ。
そしてこの計画は、今のところ全面的に上手く進んでいる。
「サリー、明日私が学園から戻ったらすぐに出発よ。今夜中に持っていくドレスをトランクに詰めておいて。いかにも慌てて摘めましたっていう感じを出すから、数着だけよ。裏地に宝石を縫い止めるのも忘れないで」
「ええ分かってますわお姉様。ですが、明日お姉様お一人で大丈夫ですか? やはり護衛を付けた方がよろしいのでは?」
サリーが心配するのも無理はない。明日の断罪は学園の中、王太子とその取り巻きとヒロイン対ローズなのだ。
「安心してサリー。記憶どおりなら、断罪はあっさりしたものなの。私が罪を認めて追放を承諾すれば、すぐに帰宅できるわ」
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