君への思い

@Kpoinnto

君への思い

中学3年の放課後。

春の風が、グラウンドの砂ぼこりを軽く巻き上げていた。


屋上に続く階段の途中、少しだけ開いた窓から日差しが差し込むその場所が、秋人と蓮の秘密の場所だった。


「そういえばsimeji復活するらしいよ!」


と、秋人が話し始める。


「ガチでうれしいんよな~着せ替えはもちろんマーシャ先輩!

マーシャ先輩...尊すぎる!」


蓮は、途中までは笑って頷いていたけれど、次第に口数が減っていった。


「…ふーん」


「ん?どうした?」


「…別に」


視線をそらしながら、ぷいっとそっぽを向く。


「……え、もしかして嫉妬してる?」


「してないし」


「ふーん。じゃあマーシャ先輩の尊いところもっと語ってもいいよね?」


「どーぞご自由に」


蓮は軽くあしらった。


秋人が嬉しそうに話し始める。


「マーシャ先輩はぁ、包容力あるし~、他人気遣いできるし~、時にはお姉ちゃんしてくれるし~。ほんとに尊い」


「あー、マーシャ先輩が彼女だったら人生絶対謳歌できたのに

2次元だからなー。叶わぬ願いだわ」


「……」


「やっぱり、嫉妬した?」


「しらない」


「ごめんって。冗談だって。機嫌直してよ…」


「……」


「無視が一番きついってー、機嫌直してよぉ...」


「……」


慌てて謝る秋人を蓮はじとっと睨んだ。少しの沈黙のあと、彼女がぽつりとこぼす。


「ばか、あほ」


蓮はそのまま続ける。


「マーシャ先輩がいるならボクはいらないんでしょ」


「俺は蓮に今すぐ甘えたいよ。だからごめん....」


しかし蓮の怒りは収まらない。


「さっきのこと本心なんでしょ!」


秋人は言葉に言葉を重ねるように言った。


「違うっ‼」


「言ったじゃんか..俺はずっとお前の隣にいるって....」


「ボクじゃいやなんじゃないの」


「俺は蓮のパートナーだって....言ったのに....」


「だって秋人がマーシャ先輩が彼女だったらとか言うから、」


「ボクが二次元に勝てるとこ1個もないのわかってるくせに」


「蓮だって、俺を頼ってくれて....俺に甘えさせてくれて....すっごい嬉しいの....すっごい幸せなの....」


「2次元は2次元、所詮それだけ。本当に甘えられるのが、1番なの....甘やかしてくれるのがいいの....だからさ」


「酷いこと言って、ごめん、蓮」


「ほんとにボクでいい、?」


秋人は一歩近づいて、まっすぐ蓮の目を見た。


「2次元は絶対触れられない。遠い遠い理想なだけ。なら甘えさせてくれる蓮が一番

実際に甘えられる。それが幸せ

言い訳にしかなんないけどさ

蓮が一番俺に寄り添ってくれてるでしょ

理想を追い求めて現実逃避するのはバカのすること。

しっかり向き合える人がいるからこそ人生は初めて彩る

綺麗事でもいい、汚くてもいい俺には、蓮しかいないんだ

だからさ、機嫌治して欲しい」


その時間は二人だけの世界で時間が止まったようだった。


「....うん」


「ありがとう。二度とないとは言い切れないけど極力そういうことは控えるよ」


「ごめんね蓮。お詫びにしてほしいこととかある?」


「わかんない」


「普段どうしてほしいとか…」


 終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君への思い @Kpoinnto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ