誰がための復讐

柳 凪央

プロローグ

 (この物語は「小説家になろう」で投稿したものです)




この場所を選んだのは、偶然ではない。

 地図にすら載っていない、建設途中で放棄された「それ」は、森の奥でひっそりと朽ちかけていた。新しいのに古びていて、未完成なのにすでに捨てられている——そんな不完全さが、どこかあのサークルの連中に似ていた。


 空は灰色、靄もやがかかって、午後三時とは思えない薄暗さだった。スマホの画面に目を落とす。メッセージは既読になっている。全員、「来る」と言っていた。


 何年ぶりだろうか。大学を卒業して、それぞれが社会に散っていったあの連中。

 彼らはもう、この世界に必要ない。


 俺は、今日この日のために一年間、準備をしてきた。引き金は、彼の死だった。

 優しくて、お人好しで、遠慮ばかりしていた彼が、最期に何を思ったのか——それを考えると、内臓の奥が熱を帯びる。怒りではない、もっと静かな、それでいて消えないもの。薪の火が赤く燃え続けるような、復讐心。


 廃墟のロビー部分は広く、まだ剥き出しのコンクリートに木の骨組みが無造作に打たれていた。外壁も仮設のまま、一部はブルーシート。だが、数人が過ごすには充分な空間だ。

 殺すための「舞台」としては、申し分ない。


 最初に来るのは、おそらく白井だろう。アイツはいつも、「場を仕切る」のが好きだった。口では「久しぶり~」とか言いながら、誰よりも警戒心が強くて、自分だけは傷つかないよう立ち回るタイプ。

 俺は、そんな白井の命を、最初に断つと決めていた。


 耳を澄ます。…聞こえた。砂利を踏む足音。

 森の奥から、誰かがやって来る。


 俺は笑った。口角だけをわずかに引き上げる練習を、何度しただろう。

 今日だけは、仮面をつけて立ち回る必要がある。犯人に見えないように。

 誰も、俺を疑ってはいけない。


 5人を、すべて殺し終えるまで。

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