第2話 許せない女

「どうしたんだ? フィオーリ。誰にも言わずに俺ひとりで来て欲しいなんて」


 早馬で私の手紙を届けて、すぐに駆けつけて下さったウォード義兄にい様。

 義兄にい様と言っても実の兄ではない。


 お母様はなかなか子宝に恵まれず、結婚して4年目に生まれたのが私。


 しかし、二人目を望む事は難しいとお医者様に言われ、遠縁から当時4歳の義兄にい様を将来インペルタ伯爵家の当主にするべく養子にしたと、私が10歳の時にお母様から聞かされた。


 傍系血族ではあるけれど、6親等以上も離れている。

 血の繋がりがあって、ないようなものだ。

 

 そんな義兄にい様の事情を聞いて驚いたけれど、それだけ。

 義兄にい様が私にとって、大切な家族という事はこれからも変わらない。


 けど、どこかお父様たちと一線を画していた理由が分かった気がした。かといって、義兄にい様との仲が悪いという事は決してない。むしろその逆だ。

 私達家族はとても仲が良かった。

 ただ、義兄にい様なりに思うところがあるのだろうと感じた。 


 ひとつ不思議なのは、未だに独身という事。

 癖のある柔らかい栗色の髪。吸い込まれそうな深い藍色の瞳。

 精悍な顔立ち。鍛え上げられた身体からだ


 モテないはずはないし、逆に令嬢から結婚の打診が来たりする。

 (実際、付き合っていた女性は多数いたけれど)

 

 ……それはともかく、義兄にい様は昔から私にとても優しくて甘い。

 そして何よりも誰よりも私を優先してくれる大好きな義兄にい様。


 だから確信があった。

 他の人なら信じない話も、義兄にい様ならきっと信じてくれると。

 

「じつは……」


 私は庭園で転んだ際、前世の記憶を思い出した事を話し始めた。

 

 前世でジェニングが愛人を持ち、私を裏切った事。

 私はその愛人であるロージーに殺されたという事。

 そして目が覚めたら3か月前に戻っていたという事


 この荒唐無稽な話を……



 !!!ダン!!!



「あいつら……っ! 殺してやりたい!!」

 話し終えると、義兄にい様は握り締めていた手をテーブルに叩きつけた。


「……こんな話を…信じてくれるの?」


「当たり前だろ? 他でもないおまえの言う事だ。信じない理由わけがない」


義兄にい様…」


 やはり義兄にい様は疑うことなく私の話を受け入れてくれた。


「俺は何をしていたんだ!? お前を助けなかったのか!?」


「私が誰にも相談しなかったの。前の私はジェニングを信じていたから。いつかまた私の元に帰って来てくれるって………けれどそんな考え……無駄だった…」


「フィオーリ…」


「今世でもロージーはきっと私を殺そうとするわ。もうすでに彼女はジェニングの愛人になっているの」


「!! ……そうだな」

 義兄にい様は、更に固く両手を握りしめた。


「私、ロージーをこのままにさせたくない!」


「……それで俺は何をすればいいんだ?」


 義兄にい様は、すぐに私の心中を察してくれた。

 私はにっこりと義兄にい様に笑顔を向ける。


 今頃、ジェニングはロージーと一緒にいるのでしょうね。

 あの人の事など、もうどうでもいい。

 全てが終わったら、即離縁するつもりだ。


 けれど、前世で私を殺したあの女だけは許せない。

 


 

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