疲れたOLは今日も頑張ります〜傍らにて護る猫達の奮闘記〜
波乗りとびー
日常の裏側にある光と闇
時刻は午後九時。
シャレオツな街並みの路地を、一人の女性が颯爽と帰宅していた。
この、孤独なSilhouetteの名は、加々美咲。
現在の職に就く際独り立ちし、山間の新興住宅街に根付いた若き
しなやかな肢体と、豊満なる胸部装甲を覆う
気高くそそり立つ
それはさながら戦姫の凱旋と言った所で、手には
淀みなき動作にてエレベーターへと乗り込んで自室の階層釦を押す。
躊躇いなど全く感じさせない所作は気品すら感じさせる。
そんな、気高く凛々しき
自室のドアを開錠し帰宅を果たした途端。
「ぬあぁあ゛つ゛か゛れ゛た゛も゛ぉ゛ん゛ん゛~~……(グデェ)」
と、汚く♂玄関に突っ伏す。
その姿は先程までの流麗さは完全に消し飛んだ。
そうやって床の冷たさを楽しむ彼女を労うかの様に。
部屋の奥から、艶やかな毛玉が二つ、ぬらりと現れた。
愛猫のチャトラス(♂)とケミー(♀)である。
(このマンションはペットおk物件なのだ)
「ンニャアオ~ウ……(ギュロンギュロン、ギュロンギュロン)」
「ナ~~~~~オ!(ブリンブリャン、ブリャンブリョン)」
ぬこ達は
便宜上アイドリングしつつ、咲にぬりぬり体をこすりつけよる。
勿論、時折反転して尻尾でシュルッ♪と顔を撫でる事も忘れぬ。
「ンン~、ふへへ……極楽極楽……w(ウットリ♡)」
ビロードもかくやという毛皮から齎される至福の感触にとろけるチーズとなる咲。
だがこれは
「……ナアァァ!(ヌコパンチバシッ♪)」
「……ンニャアオオウ!(ブッ♪)」
「ンアッ!? イテッ! ちょ、叩かないでよ……!? 臭っ!(´;ω;`)モワッ」
「んもぉ~、分かってますって、ほらツーバですよツーバ! さぁ、喰らいなさい!」
「……! ンニャアアア!(マッシグラ)」
「ナアオ~ン♪(マッシグラ)」
早速
最初からそうしろと言わんばかりに喰らいつく!
これで最早
ぬこまっしぐらである。
そんな
自らも給餌すべく
「あ゛あ゛あ゛! 牛乳が無い! 買うの忘れてた! ンギギィ……仕方ない、反対のコンビニに行くか~、とほほ……」
かくして、痛恨のミスをかました
疲労で重く感じる足を引きずり、
「お月さんがわたしを嘲笑うよぉ……(´;ω;`)」
ショックのあまり訳の分からないララバイ(?)をぼやきつつ、コンビニへと向かう咲。
その肩を落とした背中を、給餌し終えたぬこたちが見送る。
旨い口をして、顔を洗いながら……。
……………………
時は進んで暮れ四つ頃。
牛乳を求めコンビニへと向かう咲は、薄暗き路地を疾駆する。
「うう、歩きにくい……。やっぱヒール辛ぇわ……」
ぼやく彼女の眼前に、煌煌と光る曲がり角が見えてきた。
目当ての8&12は鼻の先である。
「やっと着いた~。ここ地味に遠いんだよね……。ま、兎に角牛乳牛乳っと……。(……ン、クン……)( ,,`・ω・´)ンンン? 動物か何か(適当)鳴いてる?(クーンクンクン……) こっちかな?」
何らかの鳴き声がする方向へと足を向ける咲。
「こっちは……ゴミ捨て場か。確かここらへんに……「クーン、クゥーン!」……あっ!」
向かった先の一角には、か弱い聲をあげる愛らしきパピーが居た!
「うわぁ~♡ ヤッター、カワイイ! ワンちゃんだぁ♡」
「クーン、ククン! クンクン、クククゥーン!(ヘッヘッ……)」
自身の前に現れた咲を目にして、甘える様に鼻をならしよるパピー。
切なげな上目遣いが咲の庇護欲と義侠心、その他諸々(?)の感情を増幅。
遂には危険な領域へと加速する!
「ンー、まだちっちゃいなぁ~♡(ヒョイッ)」
「ッ!? キャン! クォン!(スボッ)」
「ンアッ? ちょ、もー、こちょばい~w」
「クンクン、クククゥーン! ヘッヘッヘッェ……(ズォォォオ)」
「何デこんなトこに子イッヌが居るのぉ~……? ウチに連レてカエラナきゃ……(ブツブツ)」
「クンクン、クヘヘヘヘ……(ニチャァ……)」
突如現れたか弱くも愛らしい毛玉を思わず抱え込んだ咲。
その見事な胸部装甲へと自らのマズルを突っ込んで深呼吸しよるパピー。
だが、片や咲の瞳からはハイライトさんが行方不明となり。
焦点定まらぬ視線の先には虚空が映るのみ。
「(ま~たアホなヒットが釣れよったわwwww”クンクゥ~ン♡”って鳴いとったら、ヒトカスなんぞすーぐ引っかかりよるけぇの!クククン!)」
ふらふらになった咲をみて、更に厭らしき笑みを浮かべよる、パピーの姿をした「何か」。
「ええ感じにワシ自慢のジツが効いとるのォ……w ほなキメ♂さして貰おかいのォ! おらッ!
欲望に濁った眼が鈍い光と共に怪しく輝く!
「はう……。……! ンアッ!?(ビクッ♡)」
謎の怪しき呪術を浴びた咲。
美しき肢体が痙攣、硬直した。
感情は完全に失われ、ただ目の前を見つめるだけ……。
だが裏腹に、パピー(?)を抱えていた手は力を増した!
「クヘヘ……。!?(ガシッ♡) グガガッ! や、やめろやめろ! 急に締め付けよったぞ!?(ギリギリ……♡)」
”逃がさん……。お前だけは……”
そんな、”確実に相手を仕留める”という意思を明確にするかの如く。
咲の手は、この悍ましい「何か」を締めあげる!
「なんでじゃ! なんでワシのジツが効かんのじゃ! 泣きながらワシに這いつくばって、嬉しそうにケツ舐め始めよるちゃうんかい!?」
苦し気に身を捩るも、聖なる御手から逃れる事は敵わぬ。
邪鬼を足下に踏みしめた鬼神が如く。
汚らわしい賊を戒める咲であったが。
徐に片手離して懐へとやる。
「グガガ……! なんじゃ、今頃効いてきよったんかぁ……? クッソ、ビビらせよって、馬鹿力はよやめんかいッ!」
それは情状酌量の情けをかけたものでは、決してなかった。
その証拠に、「何か」を掴む手の出力は一向に衰えぬ。
それどころか、逆にトルクを強めてゆく。
咲は
「(ポパピプペ……♪トゥルルル……ガチャ♪)……あの……ですか? ……はい、はい……です……コンビニの裏……すぐ来て……」
「ファッ!? な、なんじゃこのねーちゃん、ワシというモノがありながら他のオトコに電話かいな!? クッソ、どうなっとんねん、離さんかいッ!?(ジタバタ)」
自身を締め付ける途轍もない圧力に加え、得体の知れない恐怖を感じて抗う「何か」。
だが、その必死の思いも空しく。
しじまを切り裂き、
保健所のおぢさんたちである。
彼らはこの場へ到着するや否や、素早く陣形を展開。
咲もまた、朗々とポチカスを差し出す。
それはもう見事としか言いようのない連携プレーであった。
刹那にも満たぬ間に、ポチカスは完全に捕縛、投獄された。
「クキャイイーン!? 何じゃおんどれらはッ!? クソ、離せや、離さんかいッ!」
極めて破廉恥な悪態を吐きながら脱獄を企てる「何か」の目が、塀の上で光る翠煌をとらえた。
「フッ、無駄だ……ここら一帯のヒット達には既に『処置』を施しておる……」
「左様、うぬの下卑た技など効きはしませぬッ!」
「クカカッ!? ま、まさかッ! おんどれらはヌコン共!(ビクッ♡)」
「遥か太古にヒットをルラギリ、ヌコンの民をも弑さんとした我らが宿敵スヌ・イーカ……! ……その先兵ポチ・ザ・グラットンよ。まさかうぬがこの地に入り込んでいたとはな……」
「ですが、我らの目が細い内は好きになどさせませぬッ! 決して!」
塀の上、即ち咲の頭上にて見下ろす存在。
それは
「くっそ、このしけた街ぁおんどれらの縄張りやったんかい。しかもワシん事まで知っとるとはな……クソ、クソ、クッソォオオオ!」
「フッ、出会ったばかりではあるが、さようならだ……な」
「お前の事は決して覚えませぬッ!」
「なっ!? そこは忘れへんと違うんかいッ!(ビクッ♡)」
「これからタヒに行くうぬに割く記憶容量などない(断言)」
「そうよッ!(便乗)そら、
これ以上の問答は無用と言わんばかりに。
ポチカスの入った檻が荷台に放り込まれ。
リアドアが「バタム」と無慈悲に閉じられた。
「クッヒャ!? ちょ、やめてやめて! 助けてッ! いやじゃ、タヒにとうない! おのれヌコン共! おのれヒトカス! 許さん、呪う、絶対祟る! 祟ったるぞぉ……畜生、畜生ー……ッ!(ドナドナドーナドーナ♪)」
かくして、
嵐の様に現れ、そして過ぎ去っていった。
人知れず始まった、太古から続く光と闇の果てしないバトル。
それは異界に浸食されつつあった路地裏が静寂に包まれると同時に幕を下ろした。
危険が去ると共に、無表情であった咲が意識を取り戻す。
「……? アレ? 私何で……? ……アッ! 牛乳買いに来たんだった!」
自らの
それを見届けた
……………………
それから四半刻(30分)後。
ねんがんの牛乳をてにいれた咲。
頃してでも奪い取られる様な事もなく、無事に帰宅した。
ぬこ達に迎えられた彼女は、手早く給餌して入浴を済ませるや、寝床へと潜り込んだ。
寝転がりながらスマホで大好きなどうぶつ動画を垂れ流しつつ愚痴る。
「あーあ、今日は特に何も無かったのに、妙に疲れたなぁ? ン、ちょっと早いケドもう寝よっとw(ボフッ♡)」
そう言ってアラームを設定したスマホを枕元に放り投げた。
きちんと充電とアラームがONになっている事をしつこく確認して「ヨシ!」と指さし。
後、両脇に侍っていたぬこ達を順繰りにぬこ吸いしてから消灯。
布団を頭から被るや、眼鏡の劣等生少年もかくやと言うスピードで寝息を立て始めた……。
……そして、時刻は丑三つアワー。
「ンン……ッ。うーん……や、やめ……あうぅ……(ハァハァ)」
真っ暗な室内に咲の呻き声が響く。
今、彼女は魘されていた。
全身を縛られた状態で、イッヌ共がウ〇コした直後のケツを顔面に押し付けてきよるという、とんでもない悪夢によって。
ポチカスの放った妙なジツは、彼女の精神に深刻なダメージを与えていたようである。
その様子を枕元で見守っていたチャトラスが叫ぶ。
「……ムッ!? これはいかん! 彼奴め、我らが『処置』をも食い散らかしておったとは……!」
「なんと!? その様な事があるのですか!?」
「忌々しいが、彼奴の力は本物であったようだ……だが、ここには我らが居る。きみ、アレをやるぞ!」
「ええ、いいですとも! 必ずや咲を救ってみせましょうぞ!」
そういって、咲の耳にそれぞれ喉元を近づけるぬこ達。
後ろ脚の肉球を口元へと持っていくと同時に。
「ギュロンギュロン……ギュルンギュルン……」
「ブリンブリャン……ブリャンブリョン……」
と、アイドリングを始めた。
「ンンッ……! あぐぅっ……ン……? フフッ……。……( ˘ω˘ )スヤァ……」
苦悶の表情を浮かべていた咲であったが。
ぬこ達のアイドリングを聞いた途端、安らかに寝息を立て始めた。
だが、チャトラス達は手を緩めない。
「まだだ……完全に邪術を消し去るにはまだ足りぬ」
「ええ貴方。ここからが正念場ですね」
耳元のアイドリングに加え、前脚のミルクトレッドでヘッドスパ。
更には後ろ脚の肉球の香りを鼻先へと届ける。
ぬこのアイドリング音、そして肉球のポップコーンみたいな匂いはヒットに安息を齎すのだ。
「きみ、苦労をかけてすまないね……これは一晩かかりそうだ」
「何をおっしゃいます。咲のためならば、これしきの事……ッ!」
「ありがとう……彼奴の抜け毛一本、アポクリン汗腺分泌物の一かけらも残さぬッ……」
ぬこ達の献身的な介護は空が白々と明けるまで続けられた。
………………
翌朝。
ぐっすり眠った咲は元気溌剌。
身支度を整えた後、ぬこ達へ食事を与えて交互にぬこ吸い。
ヌコニウムを蓄えた後、
その様子を窓から見つめるチャトラスがツイートする。
「ウム、どうやら後遺症など残っておらぬようだな」
「ええ貴方。これで一安心ですね」
「……だが、彼奴等は未だ健在。きみ、これからも頼むぞ」
「勿論ですとも。このケミーにお任せあれ!」
「……スヌ・イーカ共、うぬらの邪な企み等決して許さぬぞ。このチャトラスが居る限りはな……ッ! 再び我らとヒットが手を取りあって歩める、その時までは……!」
若き守護者達は来るべき希望を胸に、戦う決意を新たにするのであった。
我らが地球は、宇宙から様々な悪意に狙われている。
そしてヒット達はそれを知らぬ。
だが決して恐れないで欲しい。
我らを護る、頼もしい存在が傍らにいる事を。
それでも彼らはここにいる。
ほら、貴方の隣にも。
おしりw
疲れたOLは今日も頑張ります〜傍らにて護る猫達の奮闘記〜 波乗りとびー @hiraganaemon
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