第4話

 アニエスが荷解きを終え、部屋で一休みしているころエドワードは自身の執務室で書類を片付けながら執事のギヨームと先ほどの顔合わせのことについて話していた。


「なぁ、ギヨーム。あの令嬢はもともとああいう体格の娘だと思うか?」

「旦那様、いくら女性経験が少ないとはいえアニエス様のおからだを見て普通だとは到底思えません、もっと世間の女性を見たほうが良いと思われます。」

「うぐ…仕方がないだろう!生まれてこの方男社会で生きてきたのだ。この領に来てからは多くの人と会っては来ているが経験が足りん。なぁ、正直彼女がこの領で生きていくには少々不安が残る。シャルル侯爵に一筆したためてシャルル侯爵領で療養させるのはどうだ。」


 エドワードは名案が思い付いたとばかりに提案したがギヨームは深くため息をついた


「旦那様それは難しいかと。あの体と体力でこの公爵邸までたどり着いたのが奇跡といっても言ってもいいと思います。もう一度シャルル侯爵領まで送っていく途中で体調を崩したらどうするおつもりですか。幸いこの下の街には医師はいますがこの町を出たらシャルル侯爵領まで医師はおりませんぞ。」


 公爵邸からシャルル侯爵領まで馬に乗れば半日ちょっとで行けるが馬車なら二日はかかる。その間に体調を崩してもあるのは隊商宿が4つ、今のアニエスは手足は枝のように細く顔は比較的ましだがそれでも病人のようだ。本人からすれば日頃の実家でのしごきに慣れていたため実は見た目以上に丈夫なのだが、はたから見ると危なっかしくてしょうがない。


「旦那様、しばらくはここで休んでいただき体力がついてから考えていただくのが最善かと存じます。旦那様の物差しで人の限界を図るのは少々無理かと前々から思っておりました。」


 ギヨームの言う通り神を殺して人の身を超えた力をもったエドワードは体力も人並外れている。それで図っているのだからギヨームの言い分も確かだろう。


「ギヨームならわかっていると思うが俺はあまり社会の情勢に詳しくない。なぜあの令嬢はあのような状態で一人でこの公爵領に来ることになったのかがわからない。探れるか?」

「旦那様、奥方になられる女性をあの女性と呼ぶのはおやめください。しっかりお名前で呼ぶように心がけてください。アニエス様のご実家の件、いままでなら探れなくはなかったのですがさすがにアニエス様のお世話もこの度業務として増えたため正直人手が足りません。シャルル侯爵閣下にお願いしてはどうですか?そろそろあの方に借りを返していただいていいかと。」

「わかった。そろそろあの爺に貸した借りを使うときか。あとそのなんだ。ア、アニエス嬢とでも呼べばいいのか?」

「なぜそこで動揺するのですか。まぁアニエス嬢でもよろしいと思います。及第点としておきましょう。」


 それはそうである。日頃から領主として接する町の女性はもう亭主を持っている奥方がほとんどでエドワードが接する同世代の女性はアニエスが初めてといってもいいのだ。顔合わせの時にまくし立ててしまったのもこういうぼろを出さないためであった。


「まぁ、夕食時にでも多少聞けるであろう。」


 巷では「暴君」だの「すでに人ではない」となんだといわれて恐れられているがそれは彼を恐れる人前では緊張して目つきが悪くなってしまうまだまだ22の女性経験の少ない少しマイペースな青年なのだ。

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