第14話 氏神様
――待ちわびたぞ。そなたが次代の橘家の当主か。ふむふむ、そなたが童の頃から見知っておる、よく来たな。
そして酒の供物だが、よくぞ持参した。さっそくいただくとするか。
――グビグビ
と頭の中で美味しそうにお酒を飲む音が響く。
――プハーッ。おお、これは美味である!良い酒をもってきてくれたな。
頭の中に響く口調はだいぶフランクな感じがするが、目の前の社からは厳かな空気の波動が、絶え間なくビシビシと私に浴びせられている。会長や専務から浴びせられるのとはまた違う、冷や汗だらけになるプレッシャーね。
拓真を見ると何の影響もなさそうだから、これは私だけか。
「参上するのが遅くなりまして、申し訳なく。お酒の方は、気に入っていただけたなら幸いです。」
――うむ、これは良いものぞ。
お主への加護は既に生まれたときより与えておるが、ただ現在そなたはこの地に住んでおらぬようだな。お主は生まれてから20年近くここに住んでおったゆえに、ここから離れていても加護は届く。しかしお主に子が生まれても、少なくともしばらくはこの地で過ごさねば、我の加護がその子に影響を与えることはないぞ。
それにお主自身もたまにでもいいからこの地にくると良い。
「ええ、もちろん。お酒も奉納しないといけませんし、定期的に訪問させていただきます。『わはは、それは助かるが酒はついででよいぞ。』
しかしなるほど、この地と密接に関係しているということなのですね。」
――そうだな。
まぁ子供を産むつもりはないから、その辺は別にいいのだけれど。しかし代々続けて後世に繋いできたのを私の代で終わらせるのは、少しご先祖様たちに悪い気もするけど。ただ父の手紙に気付いてなかったら同じことだったと思えばいいか。
――して、想像はつくが後ろの男は何者かね。
「ご紹介が遅れましたこと申し訳なく、こちらにおりますは私の伴侶である星場拓真になります。」
と、私は拓真を手招きした。すると嬉しそうに私の横にきた。
――なるほど。橘一族ではないゆえ加護は与えられぬが、お主の伴侶であれば、見守るくらいはしようか。それっ。
するとあたりを一瞬ぴりっとした空気が包み込む。それに少しびっくりしたような拓真だったが、そのままフラフラと尻餅をついた。
私は慌てて駆け寄って抱き起こした。
――すまんな。まだそやつは私の神気に慣れておらぬゆえに、ちょっと刺激が強過ぎたようだ。
「仁美、この頭の中に響く声は?仁美にも聞こえているんだろう?」
「橘家の氏神様の
「えっ。お義父様の手紙にあった……あの?
失礼しました。お初にお目にかかります。仁美の夫の拓真と申します。よろしくお願いいたします。」
――ははは、そなたは橘一族ではないゆえに加護は与えられぬが、この地にいる限り悪いようにはせん。
「そういえば、私は結婚して橘姓ではなく、星場姓になりますが、それは問題ないでしょうか。」
――問題なくはない。むしろあるが、それでもどちらかといえば、ここを離れて暮らす方が影響は大きい。できればお主には子を何人か産んでもらって、そのうちの一人に橘姓を継がせて、この地を安堵させてほしいものだな。
なるほどねぇ。と少し他人事に思っていたら横から、
「それはむしろ願ってもないことです。」
と、とても元気な神の言葉を肯定する声が横から聞こえた。そして拓真は私をじーっと見ている。まるで「ほら、神様もこう言っているんだしさ」と言わんばかりである。
はぁ。まぁ拓真からするとそうなるわよね。
「まぁ、考えておきます。」
――それはそなたらの判断に任せよう。
さて、続いては当主たるお主に、我の力の一端の使用を許可しよう。それはそこの神器である鏡を補助的に用いて行使するものだ。さっそくその鏡を持ってみよ。
言われたとおりに、神棚の前に鎮座しているその意匠も美しい、タブレット大の鏡を手に取った。するとそれまで私の姿を映し出していた光り輝く鏡は、違う何かを映し出し始めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます