夢のスーパーベビーシッター

五來 小真

本文

とあるベビー用品メーカーが、研究の末についに新しいベッドを完成させた。

その名も、スーパーベビーシッター。

赤子の微弱な脳波を検知し、空腹・排便・睡眠のすべてをカバーするベッドである。


『一瞬たりとも泣かせません』をキャッチフレーズに、自信たっぷりに売り出された。


それから一年は順調だった。

しかし、二年目で思わぬ問題が発覚した。

赤子の意識が育たないのだ。

無表情で、外部に興味を持たない。

もちろんトイレなんて覚えることもない。

当然の結果だった。


何も言わなくても、満たされるのだ。

どうしてわざわざコミュニケーションをとろうとするだろうか?

どうして手間をかけてまで、トイレを覚えようとするだろうか?


このままでは、会話も出来ない、トイレも覚えない小学生が多数生まれ、そのまま大人になってしまう。


メーカーは、危機感を覚えた。

回収を試みたが、所有者からの猛反発にあう。

彼らが期待してるのは、あくまでアップデートであり、回収ではなかった。

『泣かせないと言った責任を取れ』というわけである。


『泣いてから満足するようにすればどうか』と考え、メーカーは試験アップデートした。

最初は上手くいった。

しかし、赤子はすぐに泣くふりを覚え悪用しだした。

お腹が空いてないのに、食事を出させる術を覚えたのだ。

他の動物でも、これぐらい単純な条件反射だと対応する。

ましてや、人間の赤子である。


そこでメーカーは、『誰か本当に来てくれ』という切実な要求が脳波に表れた時のみ、処理を施すようにした。

しかし結果は悲惨だった。

クレームが殺到したのだ。

赤子が泣きすぎるからである。

所有者は、赤子の発達より前に、そもそも泣いてほしくなどないのだ。

製品の売り文句から言っても、当然だった。


一年目に問題が発覚しなかったのも、全く同じ理由に他ならなかった。

メーカーはここに来て、製品の全面回収を余儀なくされ、研究費用・製造費・アップデート開発費および実行費用・回収費用が雪だるま式に膨れ上がり、廃業へと追い込まれた。


かくして世界から、有用なテクノロジーが呆気なく失われたのである。



百年が過ぎ、スーパーベビーシッターなど誰の記憶からもなくなった。

そうして医療・介護メーカーの手によって新技術として、このテクノロジーは復活した。


『これは、画期的』

『昔では、考えられない』

『もうおじいちゃんのうんこの始末をしなくていい』

『今でこそ、作れる製品』

『昔の人は、かわいそう』


世界は、絶賛した。

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夢のスーパーベビーシッター 五來 小真 @doug-bobson

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