第14話 森の中を移動とかは得意分野



「あれはやはり侵略派の手先だったのでしょうか?」

「侵略派じゃなくて回復派ね」


「言葉ひとつのことで別にニライカナ国へ配慮する必要を感じません。姫さまはなぜそこまで?」

「そういうところにこだわる連中が面倒だから」


「……そうなったらだいたい殴っておしまいという形にいつも姫さまはしてしまうではありませんか……」


 あきれたような顔でアイーダはそう言った。


 あれから屋根伝いに首都を移動して、そのまま城壁も超えた。

 わたしはもちろんだけど、身体強化魔法を使ったアイーダは問題なくそのくらいのことはできる。ビバ! 身体強化!


 そして脱出後はそのまま都市国家群――アラミス連合の方向へと移動していた。

 今は普通に歩いているけど。


「そうすると侵略派は姫さまをあきらめていないということでしょうか?」

「そもそも侵略派……じゃなかった。回復派の手先とは限らないけど?」

「そうですか?」


 アイーダは首をかしげた。

 アイーダの中ではナミーユたちも侵略派……じゃなかった。回復派に思えるようだ。


 わたしもスイートルームでの襲撃からいろいろと考えてはみた。


「ナミーユは結界の警戒音について知らなかったから……それでいてダガーに塗った毒、痺れ薬のにおいはナーハの暗殺者と同じもの。このあたりのことを考えると、さっきの集団は回復派じゃなくて貿易派で、しかもラフティとは別の人、かなって」


 まったく同じにおいの毒というのは珍しい。微妙なちがいはあるのが普通だ。


 ナーハの時の暗殺者とナミーユたちは同じ裏組織だろうという点はこれで確定といってもいい。だから基本的には貿易派だろ。


 わざと相手の毒を手に入れてる可能性は……そうする必要性があると思えないから、なしで。


 ナーハの暗殺者は結界の警戒音についてはもう知ってるから、ラフティがらみだったらその情報は握ってるはず。


 そうすると……貿易派関係の裏組織だけどラフティ関係ではない、ということになる。これがわたしの予想だ。


「そういえば貿易派の中にもヤーバナ王国への侵攻を進めようとする勢力が生まれたという話でしたね」

「バカなことを考える人ってどこからでも出てくるわよね……」


「ヤーバナ王国としては……南進してニライカナ国を攻めるつもりなどないでしょうに」


「王家と考え方がちがう貴族なんていっぱいいるけど」

「ああ、そういうところから戦火があがってもおかしくありませんね」


 アイーダにも思いあたるヤーバナ王国の貴族がいたのかも。

 すごく納得した顔でアイーダはうなずいてる。


「まあ、ナミーユについてはそうであってほしい、というわたしの願望もあるし」

「願望、ですか……」


 わたしはナミーユが貿易派からの刺客だった方がいいと考えてる。


 ラフティの依頼で回復派の最高戦力を潰したから、二つの派閥のパワーバランスが崩れたはずだ。

 だからナミーユたちが貿易派がらみの裏組織だった方が、トータルでのバランスとしてはいいのだ。


 ニライカナ国が国内での政治対立に時間を取られる方が、隣国のヤーバナ王国としてはありがたい。いや、別に心配とかしてないけど。


 ……わたしは、そういうことを考えるべき地位ではもうないのだ。そう考えるとあの王子から婚約破棄されてよかったぁ。


「やはり情けを交わすとそういう……」


「別にそこじゃないから。そもそも暗器を隠してないか確かめるためにひんむいて、暗器がなかったからそこを誤魔化すためにたっぷりとイタズラしたの」

「要するに弄んだのですね……姫さま、なんということを……」


「ついでだからいいでしょ。筋肉のつき方とかで監視役だというのも分かったんだし、あれは絶対に必要な作業だったのよ」

「やはりわたくしの教育が間違っていたのでしょうか……」


 アイーダがため息をついた。

 アイーダは年上の侍女だけど、別に教育係という訳ではない。

 そういう責任を感じるのはやめてほしい。


 そもそもわたしは悪くないはず。


「どちらにせよ、わたしが国外に出てしまえば貿易派も回復派もヤーバナ王国との戦争はあきらめると思うから」


「それはそうかもしれません。まあ、ヤーバナ王国の南端が攻められたとしてもメイルダースにはあまり関係ありませんし」


 アイーダはどちらかというと王国よりも辺境伯領に重きをおく考え方をするタイプだ。

 メイルダースの人はだいたいこっちになる。


 まあ、メイルダースの中でもアイーダは――。


「いずれにせよ、姫さまさえご無事であればよいのです」


 ――わたし至上主義者でもある。


「ですから、わたくしを姫さまだと勘違いしているあの連中はそのままにしておきましょう」


「誤解させておくってこと?」

「そうですね。わたくしがおとりになる……という可能性もゼロではないでしょうから……姫さまがお嫌でなければ、あのままで……」


 そう言いながらアイーダ自身もその可能性が限りなくゼロに近いということを感じていたのだと思う。どんどん声が小さくなったし。


 わたしとしてはその誤解でアイーダの命が狙われることは避けたいけど……。

 どちらかというと……アイーダが辺境伯家の姫だと思われることで危害を加えられないというのなら、そういう部分は残したい。


 そもそもわたしとアイーダがそろっている時点で、わたしたちを倒せるような存在は大陸全体でもほとんどいないはずだ。

 これはもう杞憂というやつだろ。


「……そうすると、この先はどうなさいますか?」


「ウルトも心配だけど、オックスが一緒ならまあなんとかなるはず。だからイリーナとの合流を優先して、アラミス連合……は難しいか。ニライカナ国との関係がよくないし。だとすると……帝国の船でクルセイドを目指す方がいい」


 ラフティは帝国の船が貿易でもうけてると言っていた。

 海路なら時短もできるし、一度、帝国を目指すべきだろ。


「……帝国までは陸路ですか?」

「たぶん、ニライカナ国内では港に行っても船には乗れない状態だから」

「手配されているとお考えなのですね……」


 間違いなく、港町で船に乗ろうとしたら捕まえようとしてくる。

 そうなると結局は戦うことになって、当然、船には乗れない。


 だから陸路。

 しかも……。


「街道は外れて森とか山とか獣道で行く」

「……かしこまりました。姫さまの得意分野ですね……」


 勝負は……メイルダースからの追手から逃げ切ること。ここだけだ。


 戦えば勝てるとしても……メイルダースからの追手については、絶対に殺せないというのが面倒になってくる。

 このへんの連中よりも強いのに殺せないというのはかなりキツい。


 わたしとアイーダは街道を外れて、森へと足を踏み入れようとした。


「……姫さま」

「分かってる」


 姿は隠してるけど、気配はある。

 姿を隠しきっているだけでも大したものだと思う。


 アイーダが魔力のゆらぎを抑え込んで、身体強化魔法を発動させたその瞬間――。


「あっ……」

「アイーダ……?」


 ――魔力発光が乱れて散り散りになって消えていく。


 何かが起きている。

 魔法が使えなくなるような、何かだ。





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