第1話 絶頂!異世界にイッたお兄ちゃん
01
初めに感じたのは光だった。全身に浴びる、爽やかな朝の光。
「んぁ……? 寝ちまったのか……?」
妹――アスカとヤリ疲れ、そのまま寝てしまうことは多々ある。倦怠感もいつものことだし、空腹具合もいつも通り。そこに疑問はない。
しかし毎朝見るはずの笑顔が、最愛の妹の「お兄ちゃん。おはようございます♡」がない。
首を傾ければ、代わりに目の前にキラキラと陽光を弾く、たくさんの水の糸が見えた。空へ向かって登っている水の束――噴水。誰がデザインしたのか知らないが、四方に立体的に広がる水の花束は見事だった。
「こ、公園……?」
そこは空の青に反発する芝生に、どこまでも続いている遊歩道。近所にあれば絶好の散歩コースになりそうな公園だが、こんなところで……硬くて冷たい石畳をベッドにした記憶はない。しかも、
「おいおい、裸じゃねーか。全裸で公園って……下手したら捕まるぞ……」
「何が『下手したら捕まる』だ! 貴様はもう捕まっている!」
首筋へと細い刃物が突きつけられる。アキトはギョッとなって振り向いた。
「動くな! 首を刎ねられたいか!」
日差しを背負って、凛々しい少女がこちらを睨んでいた。黄金に輝く金髪。鋭い眼光を放つ青眼。純白の女騎士が、アキトを釘付けにしていた。
「むっ!? 貴様、その紋様は――」
女騎士が美しい顔を寄せ、アキトの瞳を覗き込んでくる。長い艶髪が揺れ、ふわりと甘い匂いが散った。
「消えている……いや、ただの見間違いか……?」
「……こ、コスプレ? あ、ココはなんかの撮影会場?」
「勝手に口を開くな! 質問はこちらからする!」
ハキハキとした声が公園に響く。声を聞くだけで軍隊というか、その類いの組織に属していることが分かる。
「……まず、その下半身の光は何だ。今すぐ止めろ」
細剣がアキトの股間を指す。
「光……っておい! なんだこれ!?」
股間の相棒がライトセイバーと化していた。やたら眩しいと思ったら、太陽の光ではなく股間の光だったらしい。強烈な白光は、まるで一般アニメのセンシティブ部分を隠すアレのようだ。
「ど、どうなってんだこれ…………熱くはないな。LEDか?」
ツンツンしてみるが、相棒は見た目以外はいつも通りのようで安心した。いや、見た目が変わったことはかなり大きな問題だけど……。
「さ、触るな! 汚らわしい!」
「おっと、これは失礼を」
紳士的に謝ってみせるが、どう頑張っても彼女のイメージアップは無理だろう。どこからどう見ても純度100パーセントの変態だ。
股間の凶変はひとまず置いておいて、これ以上の変態的行為は控えたい。たとえそれが、妹のアスカなら許してくれそうな行為でも。
「……貴様、何者だ? どこから来た?」
「えっと、俺は如月アキト。アイムフロムジャパン」
「? キサラギ……? 知らんな」
場を和らげようと口にした冗談も、警戒心マックスの女騎士にあっさり流された。
「そこで見ている者たち! この男の所有者は誰です! 名乗り出なさい!」
女騎士は埒が明かないとばかりに、周りに呼びかけた。ざわめきと困惑の雰囲気が背中越しに伝わり、いたたまれなくなったアキトはこっそり振り向く。
こちらを遠目で見守る野次馬たち……その頭髪は茶色を始めとしてピンクから青、緑とまるで花畑のような彩りだった。
さらに格好も踊子風だったり、神官風だったり、獣耳だったり、コスプレには向かない町娘風、農民風と様々で――――
「おい……待てよ、ウソだろ……?」
しかし、アキトは彼女たちの全てに見覚えがあった。姿形をいくら変えても――彼には、分かった。
「居ないのですか! この男の所有者は誰なのです! 出て来なさい!」
女騎士の声が遠くに聞こえる。
どう見ても本物な、抜き身の剣を突きつけられていても、裸を見られても、相棒が光っても大した危機感を覚えなかった理由――それを、アキトはひとり噛みしめていた。
「この男を兄とする――――妹は誰ですか!!」
目の前の女騎士も、囲んでいる野次馬の彼女たちも――――全員、妹。
妹との愛の果てに腹上死した兄は、『妹しか居ない異世界』に転生していた。
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