何処かへ

 警察から簡単に話を聞かれた後、私は解放された。寮に帰ろうか、そう思ったがなにか帰りたくないような気がした。結局私は渚の家に戻ることにした。

 彼女の家、数時間前に彼女が手をおいていた机の上には一枚の手紙があった。

 そこにはいじめとその苦しみが淡々と書き連ねられていた。具体的な名前は一つ燃えてこなかったが、わたしはそのいじめをした人に心当たりがあった。でも、その怒りよりも絶望がよっぽど大きくて、私はふらふらの状態で寮まで帰り、眠りについた。

 目が覚めると、前日よりも少し気持ちが明るくなっているようだった。ふと、私の頭に一つのアクションが浮かぶ。そうだな、もういいだろう。私はあの展望台に向かって家を出た。


北風に鳥肌が立って目が覚めた心地がした。

 「どうすればよかったんだ、凪沙。」

振り返る先では暗くなり始めた空が茜色をかき消していく。

夢、フィクション。もう私にはそれを確かめる必要はない。世界で一番綺麗な町並みに飲み込まれることが、彼女のいない世界との別れが、幸せだと願って。

 目の前にある柵は私を止めるにはあまりにも低かった。


 私の次の一歩が着地することはなかった。

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夢現 白池 @Harushino

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