夢現

白池

虚構

 「それでは取調べを始めます。あなたには黙秘権がありますので、自分の不利になることは無理に言わなくても構いません」

 「名前は?」

 「比嘉祐也。」

 「君には自殺幇助の疑いがかかってる。これは事実かい。」

 「分かりません。」

 「じゃあ何か心当たりはある?」

 「何か…あった気がします。」

 「そのことについて話してくれる?」

 「…。」

 怒鳴らないし圧もかけてこない。そんな彼の優しさが、私の罪人感を引き立てていた。

 ああ、いっそのこと死んだ方がましかな。

 頭の中は暗く荒んでいた。


 

 心に吹き荒れていた風雨が収まったのは二日後の午後三時だった。ただでさえ灰色の壁と見つめ合っていたからかもしれない。それでも片付けられないほど眩しい光が私という存在を認識していた。監獄に突如として現れた別世界への道。夢、フィクション。きっと今の状況はそんな言葉で表せる。でも、それを確かめる時間さえ私には惜しかった。

 そうして一つの影は格子の先へとゆっくり歩んでいった。


 足音が止まったのは小一時間ほど経った頃だった。初めは軽快だった歩調も行く先を失い、ただ疲労を足に残すだけだった。

 この先どうすれば良いのだろう。

 目前に広がる景色とは対照的に閉鎖的な私の見通しを、私は目を閉じて見ないことにした。

 解放的な場所での一時間は瞬きと共に終わっていた。夜と混じった空が事の顛末を示し出し、風になびいていた髪も視野を狭めて始めていた。世界で一番綺麗に見えた町並みにさえも鬱陶しさを感じる。そうして耐えられなくなった私は後ろを振り向いた。

 無論、振り向きにはなんの意図も含まれていなかった。ただ、思い返せばそれは確かに私の想いが現れていた。

 「凪沙・・・。」

 名前を読んでも彼女は口を開かない。じゃあ私が次の言葉を、と思ったがすべてがためらわれた。

 今の自分の境遇を彼女は知っているのか?

 そもそもなんでここまで来られたんだ?

 聞かなくてもいい。そう身勝手な結論を出した私は、いつも冷たい彼女の手を温めて、一緒に階段を降りていった。

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