コマを一つ動かす。このままいけば勝てそうだな。

 結論から言うと、実験はしっかり成功した。元々起動に成功していたラドフォードを含め、俺たち四人はディスク——エンペドクレスの起動実験に成功し、晴れてあの危険な任務を果たし解放されたのだ。


「いやぁ、初任務大変でしたね」


 談話室で穏やかな表情でそう言うのはフルトだ。任務が終わり、正式に士官学校に編入を果たした結果、俺たちの部隊に加わりこの談話室にいる。


「そうだな。何度死ぬかと思ったかわからん」


 軍隊の任務っていうのはあんなに危険で大変なものなのか? 普段の授業の訓練なんか屁みたいに感じるくらいにやばかったが。


「まあでも、おかげで収穫はあったじゃないですか」

「……これか? 俺はいらなかったんだが」


 首から下げたディスクを手に持ち眺める。

 あの実験の後、正式に俺たちに配られたこのエンペドクレス。賢者の石の個人用設定は簡単に変えられるものではないらしく、またナオミ先生の言っていた適正の話もあり、現状これを扱えるのは俺たちしかいない。なので、今後の継続的なデータ収集の意味合いも兼ねて俺たちに与えられたのだ。


「この帝国でまごうことなき最新式のディスクですよ。性能も折り紙付きです」

「こいつのせいで散々死にそうな目にあったからな。あんまり嬉しくない」


 コトリ、とフルトがコマを動かす。

 暇つぶしにやっていたゲームもいよいよ大詰めだった。


「普段授業で使ってたディスクより数倍と言わないほど性能が良かったのは認めるよ」

「ならいいじゃないですか。僕たち専用になって動作も安定しましたし」

「それもそうだが」


 まぁ割り切ってというか、切り替えていくしかないか。こいつのせいで死にかけたのも事実だが、最後にはしっかり安定したのも事実だ。余程無茶な扱いをしない限り暴走して制御不能になるなんてことはないだろう。

 コマを一つ動かす。このままいけば勝てそうだな。


 なんて思っていると、談話室のドアが開いてサクライ先輩が入ってきた。相変わらず綺麗な長い白髪を黒いリボンで一まとめにしている。


「シャン君たちしかいないの?」


 入ってくるなり談話室の棚からお菓子を取り出し、空いているソファーにとさっと座る。

 そのお菓子ナオミ先生のじゃなかったっけな……?


「ラドフォードはまだ来てません。フィオナは外出許可を取りにナオミ先生と一緒に職員室に向かいました」

「ふーん、そっか。あ、実験お疲れー。はいこれお疲れのお菓子」


 バサッと机の上にお菓子を広げるサクライ先輩。お疲れのお菓子とか言いながら真っ先に自分が食べてるあたり、この人も相当自由人だよな。

 ナオミ先生のだとか何とかは気にしないことにして、俺も広げられたお菓子を一つ食べる。


「サクライ先輩もお疲れ様です。賢者の石の件、サクライ先輩も軍の方に掛け合ってくださったのでしょう?」


 フルトもお菓子を一つつまみながらそんなことを言う。


「え、そうなんですか?」


 実験には不参加だったサクライ先輩が、裏でそんなことをしていたと?


「まあね。だって君たち死にそうだったじゃん? だからちょっとお願いしに行ったんだよね」


 こともなげに言うサクライ先輩だが、一介の学生がそんなことを軍に言ったって普通聞いてもらえないだろう。いくら先輩が特務中尉とか言う肩書を持っていたとしてもだ。


「お願いしに行ったって、どうやってですか?」


 俺がそう問いかけると、サクライ先輩は片目を閉じて可愛らしく「秘密だぜ」とだけ言った。

 サクライ先輩、一体何者なんだ……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る