炎の魔女と白銀の竜

paparatchi

第一章 プロローグ

第一章 プロローグ・1


 その小笛は、十の誕生日にお母さんからお父さんの形見として譲り受けた。

 お母さんは私に、この笛の取り扱い方に二つの注意をした。


 ひとつはいつも肌身離さず持ち歩く事。

 もうひとつは、絶対にその笛を吹かない事。


 笛なのに、吹いちゃいけないのはどう言う事なんだろうと首を傾げた私に、お母さんはこう、付け加えた。


『もし、貴女の身に何かが起こり、自分の力だけではどうしようもならなくなった時に、その笛を使いなさい。無闇矢鱈に吹くと、竜がきて、貴方を食べてしまうわよ』


 ともあれ子供心に、最後の一節は強烈で、私は今に至るまで、その笛を一度たりとて吹いた事が無い。


 今は流石に分別が分かる年なので、幼い私に母が言い聞かせたのは脅しだったのだろうと察しはつく。


 だが、あまり笛そのものに対する興味が薄れてしまっているため、今更、吹いてやろうとも思わなかった。


 兎に角、私にとってこの笛はただ一つの父の形見であり、その笛を吹く事は禁忌だった。

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