そんなにしたいか卒業
ハナビシトモエ
どうしても寝たい男&あんまり前向きじゃない女の子
男は浮気をする生物であることを知って付き合ったのはこの前まで友達の友達と付き合っていた高三のチャラい先輩。友達の友達は他人、以上。
「今日、やらねぇ?」
下心=男子高校生。まさか付き合って三日でそうなるとは思ってみなかった。
処女は持ち続けると面倒だと思っていたので、こんな適当な捨て方もあったもんではないと思ったが、ここを逃すと次のチャンスはいつ来るか。チャラチャラしていても男だ。
先輩のうしろを歩いて、この三日でどういう繋がりがあったか考えた。他人に「麻央ちゃんならお似合いだ」と押し付けられて、一緒にマクドナルドに行っていない、スタバやカラオケに行っていない。でも了承した手前、いまさら断るのは怖かった。その怖いことを安易に決めた数分前の自分も怖かった。あとちょっとおなら出た。
この先輩の背後関係を私は知らない。
それなのに私は性行為をする。この何人も遊びつくした男のマットレスの上で、幼い頃に夢見た王子様に全てを捧げることが出来なくてごめんね。
「たーおま。うわサイアク」
ただいまおかえりという略だろうが、ダサい。
チャラいわりには玄関の靴の並びはきれいで最低限の清潔感があるらしい。
「ヤリたかったけど、兄貴いるわ。ごめんね」
いつの間にか私が性行為をしたいことになっている。不服だ。否定は出来ないのだ。
「タロキチ、おかえり」
家の奥から小学生の男の子が走ってきた。この家でチャラい男はタロキチと呼ばれているらしい。
「タロキチも好きだよね。前髪作って気弱そうな背の低い女の子。知っているよ。がつがつしたのにいかないのは力負けを危惧してでしょう」
タロキチは気弱が好きらしい。
「あとあの人だけ、僕はタロキチに賛成して詫びのケーキを楽しみに遊んでくるね」
振り返る間もなくあの子は玄関の外に出た。あの人とは何者なのだろうか。
「ヘッドホンしてたら、いけるかもしれない」
あんなに恥をかいたのにまだ性行為がしたいらしい。一方、私はもうすっかり士気もなく処女卒業なんてこだわりは霧消していた。スポーツバッグを二階に持って上がって何か上で聞こえるのはチャラい先輩だけだった。
しばらく間があって、弱い声で「分かったよ」とつぶやいた。先輩が財布を持って降りてきた。そうかラブホの可能性があったのか、私が知らないだけで高校生でも入ることの出来るラブホがあるのか。
私は先輩に腕をつかまれて脱衣所まで連れて来られた。これが姉貴が昔使ってたスウェットにシャンプーはこれにコンディショナーはこれ体はこれで洗ってくれ、制服は乾くように設定している。今日は何もしない、残念だったな。
やはり私がしたかったことになっている。
「全部終わったら、タロキチという部屋に入ってくれ。好きに掃除してくれたらいいから」
掃除までさせるのか。
「ゼンジという部屋には入るなよ。ケーキ買ってくるから」
何を言うことを聞いているのか。さっさと帰ればいいのに私は気になっていた。タロキチの性欲を減退させた二人の人物を。
一人はさっき会った。もう一人がおそらくゼンジだ。スウェットは少しゆるかったが、困るほどではない。
二階でなぜタロキチの部屋を掃除しないといけなかったか。意味が分からない。私は呼吸を整えてゼンジの部屋を扉を叩いた。
消えかかりそうなどうぞだった。扉を開けると大きな水槽の奥にすごく有名な大学の赤本が積まれていた。
「あの」
ぼそぼそと何かをつぶやいた。
「なにか」
カサカサ動くシャープペンシル。部屋にはクリオネが生育されている。
「 want #whiskeyだ。二度も言わせるな。アイツもう行ったのか。聞こえていなかったろうから、あいつにもう一度行かせよう」
陰で分かる。この素材はかなりいい。
「あのさ、入れば」
私は後ろ手に扉を閉めた。人に興味がないのか声は平坦そのものだった。
「そのクリオネ可愛いですね」
間を持たせようと努力はしてみる。
「うん」
「クリオネって何歳まで生きるんですか」
「知らない」
消え入りそうな知らないだった。こちらには興味がないらしい。
「赤本すごいですね」
名前をよく聞く大学で先日の懇談で出したら担任に鼻で笑われた。
「うん」
「その」
「タロキチとやっていいよ。ヘッドホンつけるし、今回は何か月目」
「……その、三日」
ゼンジは回転椅子をこちらを向けて鼻で笑った。
「三日でよく了承したね。呆れた。そんなにいいものなの。処女卒業って」
「しないよりはした方がいい」
「僕なら一年かける」
「受験生はそんな暇ないはず」
ここで言われてばかりでは女が廃る。
「今、クリオネをみながら片耳でリスニング聞いてメモしながら、赤本の古文を訳して、暇つぶしにあんたの話聞いているけど」
「帰ります」
「上げるよ。クリオネ」
「いりません」
「即答だね」
見下げた処女卒を馬鹿にされて、よく分からないままスエットを着させられて下では洗濯機の上がったサインが聞こえる。男の家に行ったけど、ビビって帰ったのがまだマシだ。
「もしかして水槽無いの?」
「無いですけど」
「そこの小さいの持って行っていいよ」
「あのいりません」
私はゼンジに対して明確に不機嫌をぶつけた。
「もう来ない人にあげようとしていたのに残念。プレゼントのつもりだったしな、マンゴープリン買うのに帰って来るのは三十分。急いだほうがいいよ」
私は一階で着替えを急いだ。
「また来てね。これ連絡先、話くらいなら聞いてあげるから」
私がその家に行くことはなくなり、連絡先は即捨て、電車に乗った。にしてもタロキチというのはどういう名前と書くのか。十年経っても分からない。
そんなにしたいか卒業 ハナビシトモエ @sikasann
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