黒煙街の三悪《クロウシティのトリニティ》

英国紳士@見習い

バカと火薬とコンクリート

 ——さあ、悪名よこの世界に馳せて廻れ——


 🌒🖤🌒🖤


 黒煙街の銀行、その屋上。


 クラウは煙草に火をつけ、静かに夜の闇に目を凝らしていた。

 赤い火種が風に揺れ、ほんの一瞬だけ周囲を照らす。

 その光が消えると、再び全てが暗闇に包まれる。


 足元のタイマーには、残り90秒の数字。


「……詩ってのはな、静かな火薬だ」


 低く、短い声が夜の淵に消えていく。

 爆破のスイッチに触れた指先が、乾いていた。


 一方、地上。


 路地裏に響くブーツの音。

 ゲンがギターケースを肩にかけ、缶ビールを蹴っ飛ばしながら歩いていた。


「ったく、クラウの詩は爆発物みてぇで意味わかんねぇな」


 その後ろから、ヨルが姿を現す。

 ポケットに両手を突っ込んで、片方のイヤホンからはジャズが漏れている。


「お前が言えた口か? 3日前、ギターで車ひっくり返してたろ」


んだよ」


 ヨルは片眉を上げて、鼻で笑う。


「馬鹿は死ななきゃ治らねえな」


 ゲンは缶を拾って、ヨルに投げた。


「でもよ、お前もそれに付き合ってんだ。悪友ってやつじゃねぇか?」


「……それが兄弟ってもんだ」


 その会話の背後、クラウが無言で階段を降りてきた。

 重い靴音が夜の静寂を切り裂く。

 その手には起爆装置、残り15秒。


「金庫裏、吹き飛ばす。入って奪って出る。30秒で」


 ゲンがクラウを見て、にやける。


「おいヨル、クラウが珍しく喋ったぞ」


「地球、終わるかもな」


 ——ドン!


 夜を切り裂く破裂音。

 銀行の裏壁が崩れ、コンクリートの雨が降る。


 煙の中、三人の男が静かに歩く。

 言葉はいらない。呼吸のテンポだけで意思疎通は十分だ。

 それが、ストリート育ちの兄弟に許された能力。


 だが、金庫室の奥。

 そこに待っていたのは、政府の制圧部隊。

 “HYENAハイエナ”と名乗るSクラスの特殊部隊。


 黒の戦闘服に、フルフェイスのマスク。

 そして、無駄に丁寧な台詞回しが、逆に不気味さを漂わせる。


「黒煙街のクズ三匹。今夜こそ、駆除させてもらう」


 ヨルがため息をつく。そして、口角を上げてワザとらしく一言。


「まだそんな芝居やってんのか。ダサすぎて泣けてくるなァ」


 ゲンがギターケースのロックを外す。


ってこういう奴らのこと言うんだな」


 クラウは一言だけ言った。


「やれ」


 その瞬間、地獄が始まった。


 ヨルの弾丸が敵の眉間を正確に撃ち抜き、

 クラウの仕掛けた煙幕が全体を覆い、

 ゲンのギターが、音より速く一人を吹き飛ばす。


 掛かったのは、45秒。


 残ったのは、火花と血の匂いと、三人の男。


 ヨルが煙草をくわえたまま言う。


「ほんと、世の中バカばっかだな」


 ゲンがギターを担いで笑う。


「ま、俺らが一番バカで、一番強えけどな」


 クラウは何も言わず、空に火種を投げた。

 火は一瞬のうちに消え、暗闇が再び彼らを包み込む。



 ————————————————


 その夜、黒煙街に爆音が鳴り響いた。

 夜が明けると一つ、銀行が消えていた。


 誰がやったかなんて、誰も聞かない。もはや、聞く必要もない。

 何故なら——誰もが知っているからだ。

 あの三人が歩いた後に、煙と伝説しか残らないことを。

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黒煙街の三悪《クロウシティのトリニティ》 英国紳士@見習い @ryousangata05

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