まねごと

衛かもめ

第一章 夏の一日

1.1 それがそんなに珍しいことですか?


 三珠みたまトモエは、どうしても星加せいかフミのことが苦手だ。

「三珠さん!こっちですよ、こっち」

 喫茶店のテラス席で、星加は手を大きく振って声を掛けてくる。

「お茶はいかがですか?すみませんね、自分の分だけ先に注文してしまって」

「結構です。飲めませんから」

「そうでしたか。残念ですね」

「残念も何もありません。飲みたくないから、飲めないようにしているだけです」

 星加と会うたびに、このような不要なやり取りをしなければならない。

 星加が苦手な理由は性格が合うかどうかという問題ではなく、三珠が無駄なエネルギーの消耗を避けたいからにすぎない。

 星加が三珠の名字を大声で呼んだせいで、三珠は嫌がってもテラス席にいた全員の注目を浴びる羽目になる。

「人気者ですね。さすが、われら第十一定住地コロニー立ミコト高等学校が誇る、屈指の秀才」

 星加は周りの目線に気づきながらも、あどけない笑顔で話を続ける。

「三珠さんの研究は、もう第十一定住地中の噂になってますよ。世紀の難題に挑む天才女子高生--気にならない方が変でしょう」

 こんな無駄話をするために来たのではない。内心ではそう抗議したい気持ちが高まっていたが、言っても無駄だと三珠はいつからか悟っていた。

 着席せず、テーブルの横に立ったまま、三珠は突っ込むのをやめ、冷淡な顔で本題に入った。

「今回の協力者は、まだ来ていませんか」

「彼女はあるものを用意するために出かけて、ちょっと遅くなったようです。研究所の外で待ち合わせするって」

「あるもの?」

「せっかく噂の天才女子高生に会うからね。これ以上言うと、ちょっと無粋かな」

 三珠は何度も対面で「天才女子高生」と呼ばれるのが嫌で、ついに抗議することにした。

「大学に進学したくて、高校で自由研究をしていて、なおかつ女性の体を選んで生活している。それがそんなに珍しいことですか?もう西暦二五二五年なのに」

 星加は一瞬何か言いかけたが、結局、変わらない笑顔で半ば鸚鵡返しのように言った。

「そうね、もう西暦二五二五年ですものね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る