第25話 転がる音がやんだ
放課後の教室に、誰もいない。
机は整えられ、椅子はすべて静かに収まっていた。
天井の蛍光灯が、時折わずかに揺れる。
そこに、リオがひとり立っていた。
自分の席。ずっと空白だった席。
“ローリンガール”という名で呼ばれていた日々。
そのすべてを、彼女は今、穏やかな視線で見つめていた。
机の引き出しを開ける。
中には、壊れかけた目覚まし時計が一つ。
彼女はそれをそっと取り出し、手の中で抱きしめるようにして微笑んだ。
「もう、鳴らなくてもいいよ」
カチ、という音。
時計の針が、最後に一度だけ震えて――
そして、完全に止まった。
“転がる音”が、やんだ。
あの音は、ずっとリオの心の中で鳴っていた。
誰にも気づかれず、誰にも止められず。
転がり続ける存在であることを、無意識に背負い続けていた。
でも今、ようやく“止まる”ことができた。
「さようなら、“ローリンガール”」
その言葉に、誰かが応えた気がした。
窓の外には、春の風。
遠くで鐘の音が鳴っている。
リオは、ゆっくりと教室を出る。
名前を呼ばれる声がする。
笑い声がする。
日常の音が、やさしく流れている。
彼女は振り返らない。
もう、“いなかった教室”に戻る必要はなかった。
足元に転がっていた名札が、風に舞い上がる。
LAWLIN GIRL
もう誰も読まないそれは、音もなく空へと消えていった。
そして――静かに、物語は幕を閉じた。
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