第20話 反逆の声
学園中央広場――それは、能力者たちが階級ごとに整列し、
日々の“成果”と“従順さ”を披露する公開評価の場だった。
その中心に、リオが立っていた。
制服は破れている。髪は乱れている。
それでも彼女の足取りは、まっすぐだった。
蓮は一歩下がった位置に立ち、古いスピーカー装置を接続する。
その姿は、まるでかつての“記録者”に戻ったようだった。
「リオ、準備は……」
「できてる」
リオの声は、はっきりしていた。
広場に集まる生徒たち、そしてその周囲を取り囲む教師、監視員、学園システムの端末群。
誰もが、言葉を発する前の彼女を見つめていた。
いや――見ようとしていた。
「皆さん。こんにちは」
スピーカーを通じて、リオの声が広がる。
「私は、“ローリンガール”と呼ばれていました。
記録されず、番号を与えられず、存在すら否定された生徒です」
ざわめきが広がる。
一部の生徒は、怯えるように目をそらし、
一部の教師は、通信端末にアクセスし始めた。
「私はずっと、“間違い”なんだと思っていた。
この世界にいてはいけない存在。
声を出せば、世界を壊してしまう存在――そう思い込まされてきた」
その声に、揺らぎはなかった。
「でも違った。
私の声は、“壊すため”じゃない。
“思い出させるため”にある」
リオは、スピーカーのボリュームを上げる。
「忘れられた生徒のこと。
消された記憶のこと。
そして――“自分であること”を奪われた、すべての私たちのこと!」
そのとき、監視塔から警告が響いた。
「対象RG-01に対する強制停止命令を発動。沈黙処理プロトコル開始!」
巨大な集音装置が彼女を狙う。
蓮が叫ぶ。
「今だ、リオ――!」
リオは、最後の力で叫んだ。
「この声は、間違いなんかじゃない……!
これは、“わたしがここにいる”って叫ぶための声なんだああああああああ――!」
その瞬間。
空気が震え、光が歪み、世界の“秩序”が裂けた。
生徒たちの認識が揺らぎ、教師たちの命令が届かなくなる。
記録端末が爆発的にエラーを吐き出し、通信は途絶。
そして――
静寂。
その中で、誰かがつぶやいた。
「……リオ」
それは、ある生徒の記憶の中に残っていた名前。
記録されていなかったはずの、存在の痕跡。
一人、また一人と、誰かが“思い出して”いく。
存在を、名前を、言葉を。
それが、リオの“反逆の声”だった。
破壊ではなく、再生。
沈黙ではなく、証明。
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