【番外編】無口な鉄と、最初の言葉

◇ ◇ ◇


「クローネ、今日も鍛冶場にこもってるな……」


朝の光が差し込む台所。

レイガは、黒パンとハチミツをかじりながら、苦笑いしていた。


「飯、昨日の夜から食ってないんじゃないか……?」


彼女は、無口で無表情。

でも、仕事は早い。丁寧。無駄がない。


地霊の中でも群を抜いて“職人”気質。

それが、鉄の地霊――クローネだった。


◇ ◇ ◇


――数ヶ月前、彼女と出会った日。


古びた廃工房で、レイガは“音”を聞いた。


ガンッ、ガンッ……。


誰もいないはずの場所で、ひたすらに鉄を打つ音。


近づくと、いた。

煤だらけの小柄な少女。

無言で、火花を浴びながら、鉄を打っていた。


声をかけても、返事はなかった。

でも、去ろうとしたそのとき。


カン。


小さな音とともに、差し出されたもの。


それは――“不格好な鉄の指輪”。


レイガは、そっとそれを受け取った。


「……もらって、いいのか?」


少女は、わずかに頷いた。


その瞬間、レイガは直感で理解した。


「おまえ、名前……ないのか?」


少女は、少しだけ目を見開いて、また――うつむいた。


レイガは笑った。


「じゃあ、つけるさ。おまえみたいな無口で、まっすぐな鉄には――」


「クローネ。……鉄輪って意味もあるんだぜ」


その名に、少女は――小さく、笑った。

ほんの、ほんの少しだけ。


◇ ◇ ◇


現在、鍛冶場。


「クローネ。メシ、置いといたぞ」


彼女は、黙って手を止め、

鉄を冷やす音の中で――ふと、呟いた。


「……ありがとう。レイガ」


その言葉は、

初めて“鉄が口にした熱”だった。


◇ ◇ ◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る