1人ずつのサイドストーリー()

【番外編】その日、私は“嫁”になった ~火の地霊ミオナの告白~

……火だった。

燃えていた。

ずっとずっと、燃えていた。


誰にも見られず、呼ばれず、燃えるだけの毎日だった。


だから――


「ここを《ミオナ》と名付ける」


その声が、耳じゃなくて、“炎”に響いたとき。

わたしは、目を覚ました。


身体ができた。

服が生まれた。

言葉が口から、勝手にこぼれた。


 


「あなたが……わたしの“旦那さま”ですか?」


 


はい、これが“生まれて3秒”でプロポーズした女です。

後悔は……してません!!!!


でもね、わたし、本当は……そんなつもりじゃなかったんです!?


 


◇ ◇ ◇


 


【ミオナの初日記(※自作ノート)】


《起きた日》

・名前をもらう

・人型になる

・目の前に、イケメンいた

・言った →「旦那さま!」


《翌日》

・料理する(食材:木の根っこ)

・旦那さま、気絶する(涙)

・セリスさん(新入り)現れる

・水出す → スープ作る →「これが料理です」

・わたし、敗北する


《その次の日》

・風の人来る → 顔近い →「坊やって呼ぶわね♡」

・わたし、トマトを焦がす → 旦那、胃を押さえる


《その次の次の日》

・森の子が来る → 距離がゼロ

・鉄の子来る → 鍋で話しかけてる

・光の子来る → いきなり正妻アピール

・闇の子来る → 目が合うだけで鳥肌が立つ

・わたし、トマトを焦がす(2回目)


 


……正直、最初の1週間で思ったんですよ。


「嫁って……激戦職じゃないですか!?」


 


◇ ◇ ◇


 


でも、あきらめなかった。


朝は一番に起きて、朝食を用意して、

昼は畑のトマトとにらめっこして、

夜は「おやすみなさい」って一番に言って――


そしたら、少しずつ、旦那さまの表情が変わっていったんです。


「うまい」

「火加減、完璧だ」

「……ありがとな、ミオナ」


 


あの日の「ありがとう」、

実はわたし――


3回リピート再生して、脳内保存しました!!


 


◇ ◇ ◇


 


でも、最近は……ちょっとだけ、不安もあるんです。


「旦那さま、あの子の紅茶ばっか飲んでない?」

「なんか風の子と一緒に空飛んでなかった?」

「森の子の耳をなでてたって、あれ、ズルくない??」


って。


だから……


この日記には書いてませんけど、

ちょっとだけ、夜に泣いた日もあります。


「わたし、最初だったのになぁ……」って。


 


◇ ◇ ◇


 


でもね、昨日。


旦那さまが、薪を運びながらふと言ってくれたんです。


 


「ミオナが最初に、名をくれた。

それがなかったら、たぶん今もここにいないよ」


 


……わたし、そのとき、すっごく変な笑い方しちゃった。


「えへっ、えっへっへへっ……えええっへっへ~~~~……?」


旦那さまが「お、おう……?」って言ってました。

でも……うれしかったんです。


だって、あの人は、言葉が足りないから。


 


◇ ◇ ◇


 


【今日の記録】


・朝:旦那の髪にトマトソースをこぼす(不慮の事故)

・昼:焦がしパンをプレゼント(名称詐欺)

・夜:「ありがとう」が聞けた

・結果:今日も幸せでした(※泣いてない、マジで)


 


……最後に、ひとつだけ。


 


わたしの名前“ミオナ”って、なんか燃えてて、好きなんです。


でも、誰かに呼ばれないと、意味がないんですよ。


だから――


「旦那さま、明日も呼んでくださいね?」


わたしは、あなたの火の地霊ですから。


あなたが呼んでくれる限り――

何度でも、燃えますから!


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