第2話 嫁は火の地霊、無垢なる爆炎の乙女
目が覚めたとき、俺は――土の上だった。
いや、比喩じゃない。本当に地面に直寝だった。
「……は?」
服はボロ、靴は片方、手には“よくわからない印章”付きの本。
気づけば、周囲は荒れ地。
都会のサラリーマンだった俺が、目を覚ましたのは、どう見ても文明崩壊後みたいな異世界だった。
「何これ、夢? 転生? 異世界テンプレ?」
何ひとつ説明されていない。
だが、唯一わかっているのは――
俺の手元に“地図”があり、そこに書かれた地の名が消えていること。
この土地は、“名を失った地”らしい。
そして、その本にだけ、はっきりとこう書かれていた。
《名を与えよ。地は応え、契るだろう》
……うさんくせぇ!! でも、他にすることもない。
◇ ◇ ◇
地図に記された廃屋に向かうと、なんとか屋根のある家がひとつだけ残っていた。
その中央の土間で、俺は声をかけてみた。
「この地に、名を与える」
「……」
「……えっと、たとえば“ミオナ”とか?」
その瞬間だった。
地面が、“ボン”って鳴った。
地鳴りでも魔法でもなく、本当に“ボン”って。
そして、煙が上がり、その中から――
「――んむぁっ!? けほっ、けほっ!! あ、あれ、呼ばれた!?」
“女の子”が出てきた。
赤毛に、ちょっと焦げ目のあるローブ。背中からは小さな炎が“ふよふよ”と浮いている。
「……燃えてる!? 背中、燃えてる!!!」
「あ、大丈夫です! 火属性の“演出”なんで!!」
彼女はぱっと目を輝かせた。
「あなたが、わたしの旦那さまですね!?」
「そういう関係だったのかーー!?!?!?!?」
◇ ◇ ◇
数分後。
俺は焚き火でお湯を沸かしながら、少女と話をしていた。
「わたしは“火の地霊”、名をもらって“ミオナ”になりました!」
「“地霊”? なんだそれ……地縛霊的な?」
「ちがいますー! 地域密着型の精霊です! 町内会のマスコットじゃないですけど!」
「例えが雑すぎるな!?」
とりあえずわかったのは、
・名を与えると地霊が現れる(それが“契約”)
・この地には、本来“七属性”の地霊がいたが、名を失って消えていった
・俺が名を再び与えることで、地が回復する
・火の地霊ミオナは、俺のことをすでに“旦那さま”と認識している
……最後だけ予想外だったけど、まぁよしとする。
◇ ◇ ◇
「今日の唐揚げは、“ときめき爆炎チリ風味”です!!」
そう叫ぶなり、鍋が爆発した。
「いや待て待て待て!! 爆発って、料理の結果として正しいの!?」
火柱。煙。油が空中へ舞う。
今朝の拠点は、ほぼ戦場。
唐揚げの気配で目が覚めるようになってきた俺の身体、完全に火属性に毒されてきてる。
「レイガさま、“照れ”って、火の力と関係あるってご存知でしたか!?」
「そんな知識、義務教育で教えてくれなかったよ!?」
「はいっ、なので唐揚げに“好き”を込めました♡」
「告白の手段が火力調理って新しすぎるでしょ!!」
ミオナは火の地霊。
名を与えたら出てきて、嫁ですって言い張って、以来ずっと俺の胃袋と生活を炎で支配してる。
ちなみに、感情が盛り上がると背中から火が出る。
昨日は“嬉し火”、今朝は“恋する油煙”。
俺の拠点、エモーション1つで燃える。
「さあ召し上がれっ♡ “祝福のバーニングブレックファスト・カリカリ真紅Ver.2”です!」
出てきた唐揚げは、赤い。
というか、赤黒い。うっすら煙が上がってる。
「え? これ、“料理”カテゴリで合ってる?」
「もちろんですっ! 火を浴びた唐揚げには、“愛”が宿るんですよっ!」
「火葬した!? 愛を一回火葬したよね!?」
それでも一口。
ガリッ。
熱い。辛い。何かが爆ぜた。
……これ、唐揚げというより“小型火山”だよね!?
「どうですかっ!?」
「うん、口の中が熱帯低気圧みたいになってるよ!!」
「それはもう、爆発的成功ですね♡」
食後、縁側でぐったりしてたら、
ミオナが隣にちょこんと座ってきた。
背中の火が、すこしだけ揺れてる。
「……名をくれて、ほんとに、ありがとうございました」
「ん?」
「この土地、ずっと燃えてばっかりで……誰もいなくて……。
でも、“ミオナ”って呼ばれて、やっとここに“いていい”って思えたんです……」
その瞬間、火がブワッと跳ね上がる。
「待って!? なんでエモくなると発火すんの!?」
「だって、“感謝の火”ですから……♡」
「“火”の種類、多すぎだろうが!!?」
――次回、『水、現る。火と水と、洗濯板』
ツッコミ不在では許されない嫁バトルが幕を開ける――!
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