社畜女、乙女ゲーム攻略対象外の推しの傭兵おじさんと異世界で放浪する。
広井すに
第一部・第1章:社畜女、乙女ゲーム攻略対象外の推しの傭兵おじさんと異世界で放浪する
社畜女、推しの傭兵おじさんに出会う
第1話 社畜女、異世界に立つ!
あああああああああ!?
「レガリア・サーガ」のYouTubeの生放送、もうとっくに終わってアーカイブじゃねえか!!
リアタイで新情報観たかったのに!!
どれもこれもクソ上司のせいだ!
せっかく定時で上がったのに、仕事振りやがって!
その仕事、昼間言えよ!って仕事を振るな!
しかも自分はさっさと帰りやがってよぉ!!
ふざけんな、クソが!!
あー……明日隕石でも落ちて地球滅亡しないかな。
宇宙人襲来でもいい。
……。
……。
……やっぱり、ウソ♡
ヨセフ様がいる地球が滅亡したらダメ♡
ヨセフ様に隕石当たったら可哀想だもん♡
ちゅきちゅき♡
ヨセフ様が世界一♡
──今日も今日とて、SNSを開きながら怪文書を頭の中で作成するのであった。
私、
人種は社畜の日本人、27歳。
最近は夜11時近くまで残業をこなして、ギリギリ終電じゃない電車に乗って帰宅する。
帰宅するのは深夜0時近くだ。
もうここ3ヶ月はこんな生活をしている。
趣味はアニメ、漫画、映画なんでも好き。
インドア派だが、オタク趣味のための旅行も好き。
2年前くらいからは、もっぱら乙女ゲームのオタクの寂しい一般独身女性である。
─"レガリア・サーガ"。
乙女ゲーム界では知る人ぞ知る、中堅人気の買い切りゲームである。
ただいまシリーズ2作目絶賛発売中だ。
私はこの"レガサガ"の大ファンである。
全てプレイ済みなのはもちろん、レガサガ用にSNSのグッズ取引用・オタク用のアカウントも持っているし、動画もチェックしているし、コラボカフェなどのリアルイベントも参加済みだ。
特に推しは、シリーズを通して恋愛ルートの攻略対象である、宮廷神官にして王立アスター魔術学院の非常勤講師、齢1000歳は超えているエルフの大魔術師のロイド・オーウェン。
……ではなく、その知り合いであるヨセフ・ハーヴェスト、職業・傭兵の35歳のおじさんである。
しかも、私はヨセフ様のリアコオタク。
しかも、ヨセフ様は攻略対象ではない。
1作目のロイドのちょっと鬱気味な攻略ストーリー過去編に、知り合いとしてそこそこ関わってきたくらい。
2作目には、アイテムショップの店番くらいしか出番がない。
キャラクターボイスもない。
何が言いたいかと言うと、私の推しは攻略対象ではない、サブキャラだ。
そんな立ち位置で顔は普通のおじさん・傭兵・サブキャラという泥臭いキャラなので、通常のプレイヤーにはあまり人気がない。
フリマアプリでは底値の333円で缶バッジが売られているのは当たり前。
高レートの攻略キャラクターとのレート取引比率は6:1や7:1、ひどい時は10:1なんて時もある。
缶バッジをフリマアプリやロット買いなどで買い集めて痛バを作ってみたり、誕生日に生誕祭の祭壇を作った動画をTik◯okに載せてみたら、「こんな人初めて見た」という少し不本意な意味合いでバズったこともある。
いわゆる低レートなキャラだが、そのおかげで表に出さずにいるけど、内心では「私だけがこの良さを知っているんだよ……」的な痛い後方彼女面オタクになってしまったわけだ。
少しボサボサな焦茶色の襟足のある髪型、顎にある少しの無精髭、顔全体にかかる大きな傷、傭兵という職業で培った190センチのガタイのいい身体、筋肉質でセクシーな胸筋、色白な攻略対象とは違い少し日焼けした肌、なんといっても濃い眉毛の下にある優しい垂れ目……全てに一目惚れしてしまい、こんな遅くにまで仕事してるのだって、彼のグッズをいっぱい買うためだ。
じゃなきゃ今頃、こんなブラック辞めている。
そんなわけでレガサガに出てきたヨセフ様にリアコな私は、こんな生活を送っていた。
今日もSNS、公式アカウントをチェックして巡回する。
(あ、今日の生放送……コラボカフェ開催予定のお知らせ出てきたんだ。ヨセフ様のグッズは……お〜!アクスタ!)
ヨセフ様はグッズ化の常連ではないので、限定ランダムアクスタなどは稀少だ。
すぐに10本くらい確保しなければ。
SNSで歓喜の投稿をすると、他キャラ推しからは出たら譲るよ、などDMが来ている。
微妙な気持ちもあるが、推しを簡単に手に入れられるのは単純にメリットだ。
(続編も制作中だし嬉しいなぁ〜。今度こそヨセフ様も攻略対象になればいいけど……。いやいや、ダメだ。私以外のオタクが生まれたら同担拒否の厄介になりそうで病む……。とか……?)
「ん?なんだこれ……?」
歩きながらスマホでネット情報を見ていた時だった。
突如、巨大な魔法陣が足元に出現した。
薄紫の光で発光する、英語ではない何かの象形文字と円。
巨大な五芒星。
この厨二病チックな魔法陣……。
──これはグッズの意匠で散々見た、ロイドの魔法の紋章……。
アスファルトに空くはずのない巨大な穴が、私の足元に空いた。
* * * * * *
「いたた……」
私は頭を打ったみたいだが、落ちた先が芝生だったおかげで幸い怪我はないようだ。
あたりを見渡すと、昼間のように明るい。
日差しも強い。
(え……?私がいたのって夜の11時だったはず……)
「お、召喚せいこー!」
「おい、これ本当に大丈夫なのか……?」
少し軽薄そうな、男性の声が聞こえる。
田舎の親の声より聞いたレガサガのロイドのボイスそっくりだ。
その隣も男性の声……?
低く落ち着いた、ずっと聴いていたい、優しい声がする。
顔を上げてみる。
白い神官服に、銀髪のポニーテール。モノクルをかけた知的そうなエルフ耳の美青年が目の前にいた。
薄紫の瞳を細め、ニコニコしている。
コスプレイヤーだろうか、なぜこんなところに?
(……?ロイドの男性コスプレイヤー?声真似もできるなんて、随分熱の入ったオタクだな……。エルフ耳も本当に元から生えてるみたい。メイクもカツラとかも、再現度高いし。で、隣は……カメラマンとかか?)
ふと隣を見てみる。
信じられないことが起きていた。
(え、え!?どういうこと!?)
少しボサボサな焦茶色の襟足のある髪型、顎にある少しの無精髭、顔全体にかかる大きな傷、190センチのガタイのいい身体、服の上からでもわかる筋肉質でセクシーな胸筋、少し日焼けした肌、濃い眉毛と優しい魅惑的な垂れ目……。
まるで最愛の推しが、立体化したかのような男性がそこにいた。
──親の顔より見た、私の理想の男性。
──大好きで、グッズも何度も無限回収して大切にしていたその顔が。
──ヨセフ・ハーヴェスト。
その人のような男性が、こちらをじっと見ていた。
続く…
(2025年5月29日 一部修正改稿)
(2025年8月18日 一部修正)
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体のものとは一切関係ありません。
法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
* * * * * *
ここまで読んでいただいてありがとうございました!
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