第20話 ゴブリンの討伐


 『ヒャッホーッ!やっと終わったぞぉーッ!』

 陽太郎はそう叫びながら森の中をビーターで疾走していく。テスト期間も無事に終わり、自己採点では全教科平均点を採れていると睨んだ陽太郎は学校から帰ると早速異世界へと渡っていた。

 『やっぱり異世界は最高だよ!!フォーッ!!』

 静かな森の中に陽太郎のそんな声だけが響き渡っていたのであった。


 『おばさん!ヤットリージュースを一つ!』

 『おや?久し振りだね?何か忙しかったのかい?』

 『学校のテスト期間だったんですよ。それも今日で無事に終わりました!なのでヤットリージュースで乾杯です!』

 『おやおや、それは良かったね。だが村は今はそんな悠長な事を言ってられないよ?』

 『え?何かあったんですか?』

 陽太郎がジュースを飲むのをやめてそう聞くとおばさんは言ったのだ。

 『村の周りにゴブリンが出たんだよ。しかも日に日に増えてるって話さ。大事にならなけりゃ良いんだけどねぇ。』

 『ゴブリンが…。』

 陽太郎はその物騒な話を聞き、ゴクリと息を飲んだのであった。


 『あ、ヨータローさんお久しぶりですねぇ。』

 『リミエラさん!村の周りでゴブリンが増えてるって言うのは本当ですか!?』

 陽太郎は冒険者ギルドのカウンターへと向かうと、開口一番そう尋ねたのである。

 『ああ、聞きましたか?そうですねぇ。ここ最近目撃例が増えて来てるんですよぉ。一応冒険者さん達にはギルドから討伐依頼出してるんですけどぉ、元々この村には常駐の冒険者が居ませんからねぇ。ちょっと困ってるんです。』

 『ウィーグリーへ応援の要請とかは?』

 『一応向こうのギルドへ報告は上げてありますんで人は回してくれるかと思いますけどね?まあ村人としてはちょっと不安ですよねぇ。ゴブリンも数が増えると厄介な相手ですからぁ。』

 リミエラはそう言うと困った困ったと頭を悩ませていたのだ。

 『僕でもその討伐依頼は受ける事は出来るんですか?』

 『ヨータローさんですか?そうですねぇ…Fランクでしたよねぇ…まあ受けれない事は無いですけど、大丈夫ですか?相手は人間じゃ無くて魔物ですけど。』

 『いや、人間を相手にするよりは戦いやすいかと思いますけど?』

 陽太郎がそう言うとリミエラはケラケラと笑っているのである。

 『いや受けて頂けるのなら助かりますよ!ついでに薬草採取もして来ちゃえばEランクへと昇格も出来ますしね?FからEへの昇格は受付に一任されていますので私の判断で合格を出せますからぁ。』

 『え!?そうなんですか!?じゃあ依頼を受けさせて貰っても良いですかね?少しでも村の人達に安心をして貰いたいですし。』

 陽太郎はそう言うと冒険者ギルド初任務として、ヤットリー村周辺のゴブリン討伐。の依頼を受けたのであった。


 早速村を出た陽太郎はゴブリンの目撃情報が増えていると言う、いつもとは反対側へある森の中へと足を踏み入れて行く。

 しばらく警戒をしながら歩いて行くと、視線の先の木々の間に緑色をしたやせ細った人間の様な姿を確認したのだ。

 『あれがゴブリンか…何か気持ち悪いな。』

 実際目にしたゴブリンは、陽太郎の想像よりもリアルで気持ち悪くとてもではないが至近距離で短剣を使って討伐する気にはなれなかったのである。正直言って近付きたくないと言うのが本音であった。

 陽太郎は木の木陰から手を伸ばしウォーターカッターを発射した。するとその射線上に居た緑色の気持ち悪い魔物は一瞬でバラバラに切り刻まれ霧散していったのである。

 『よし!やったぞ!』

 陽太郎は直ぐ様現場へと駆け寄って行き、地面に魔性石を探してみた。

 するとスライムの物より若干大きな緑色の淡い光を漏らす鉱石が落ちていたのである。

 『これがゴブリンの魔性石か。緑色をしてるんだな。』

 陽太郎はそれをポケットへとしまうと次の獲物を探して歩いて行ったのであった。



 『よし!これで五匹目だ!』

 木陰からウォーターカッターで仕留めた陽太郎はいそいそと魔性石の回収へと向かう。気分はさながらスナイパーである。相手に気付かれる前に遠目に確認したゴブリンを遠距離から確実に仕留めていくのだ。

 陽太郎はそれが段々楽しくなって来てしまい森の中でゴブリンを仕留めまくっていったのである。

 『結構居るものなんだな。これでもう十五匹目だぞ?もうこの辺りには居ないと思うけど。リミエラさんに教えて貰った薬草も手に入れられたしそろそろ村へ帰ろうかな。』

 陽太郎はそう言うとストレージボムからビーターを出して村へと帰って行ったのであった。


 『リミエラさん!ゴブリン討伐して来ました!』

 『ああ、お疲れ様です。どうでしたか?』

 『一応これだけ魔性石は回収出来ましたね!取り敢えず目撃例の多かった森の中ではもうゴブリンは見掛けはしないと思うんですけど。』

 陽太郎はそう言うとカウンターへバラバラとゴブリンの魔性石を置いていくのである。

 『え!?こんなに討伐して来たんですか!?全部で十五個ありますけど!?』

 『はい!それにこれ指定された薬草になります!』

 陽太郎が袋に沢山詰まった薬草を取り出すとリミエラはそれをチェックして言うのだ。

 『ヨータローさん!合格です!FランクからEランクへの昇格を認定致します!』

 『やった!本当ですか!?』

 陽太郎は合格を受けて歓喜する。テスト終わりで気分が高揚している上に更に昇格試験まで合格を貰った陽太郎はガッツポーズを決めていたのであった。



 『陽太郎君、ゴブリン十五匹も討伐して来たんだって?』

 夕食後再び異世界へと入って居ると西野川が来てそう言ったのだ。

 『あれ?西野川さんも村へ行って来たんですか?会いませんでしたね?』

 『多分入れ違いになったのかもね。リミエラが大興奮してたよ?陽太郎君が凄いとか言って。良くもまあ十五匹も討伐したものだね。魔法でしょ?もちろん。』

 『はい。流石にあの気持ち悪いのには近付けませんでしたよ。僕の想像していたゴブリンと違いましたから。あれは無理です!』

 陽太郎がそう言うと西野川は笑っている。

 『私はあれを短剣で討伐させられたんだからね?凄くない?あんな気持ち悪い奴をさ!』

 『確かに…凄いと思います。僕には無理です。気持ち悪いですもん。遠距離からの狙撃一択ですよ!』

 『でも村のみんなが感謝してたよ?今夜は安心して寝られそうだってさ。あの村には常駐の冒険者が居ないからさ。みんな結構不安を感じてたんだろうね。いつの間にかあんなに増えていたらさ。何処から出て来たんだろうねぇ?』

 『多分ですけど、ロゼーナさんがヤットリー村の近くにダンジョンがあるって言ってたんですけど。そこからじゃないですかね?そこから小さな群れが出て来たんではないでしょうか?』

 陽太郎がそう考察を述べると西野川は腕を組んで考え込んでいた。

 『その可能性は無くはないけどね。そうなるとちょっとやばい前兆ではあるんだよね。ダンジョンからモンスターが出て来る時ってさ、ダンジョン内で何か異変が起きてるって事なの。いったん詳しく調査して貰った方が良いかもね?リミエラにも言っておくよ。』

 『そう言う事もあるんですか。知りませんでした。ダンジョンとしては初心者用だとは聞いてますけどね?何か異変が起きているのかな…。あのトーマスとかはヤットリー村の常駐の冒険者では無かったんですか?』

 陽太郎がそう聞いてみると西野川は呆れた様に言うのである。

 『あいつらは冒険者崩れ!だからね?ギルドが依頼出した所でまともに受けやしないから。ヤットリー村の冒険者は村人が農業と兼業でやってる様な物なんだよね。だからたかがゴブリンでも数が増えて来るとちょっと手に負えなくなっちゃうんだよ。普段が平和な村だからさ。』

 『なるほど。そうだったんですね。じゃあ早めに討伐出来て良かったですね!』

 『うん、だからみんな陽太郎君に感謝してたって訳。立派な冒険者して来たじゃない!格好良いよ♪』

 西野川にそう褒められた陽太郎は頭を掻きながら照れていたのであった。


 『じゃあEランクに上がったら次はDランク試験か。今度はギルドが指定した試験官が着いて試験が行われるからね?Dランクのモンスターを三種類討伐すると合格だね!』

 『そうなんですか?何か一気に難易度が上がりますね。』

 『まあFからEは冒険者の基礎試験みたいな物だからね。これからが本番って感じだよ。ロゼーナが来たら無理矢理に受けさせられる筈だから覚悟しておいてね?ふふ♪』

 『え!?無理矢理なんですか!?そんな!!』

 こうして陽太郎の活躍によってヤットリー村は平穏を取り戻したのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る