第18話 世界を渡る光の魔力
週明け陽太郎は何とも言えない謎を抱えたまま学校へと登校していた。結局ネックレスのスライムの涙はずっと光を放っているのである。陽太郎が頭を悩ませながら廊下を歩いていると。
『あ!陽太郎君。ネックレス着けて来た?昨日作って来たんでしょ?お揃いなんだからちゃんと着けてないとダメだからね?』
西野川がそう矢継ぎ早に声を掛けて来たのである。
『え!?こっちでもお揃いと言う意味だったんですか!?あ…と言うかその。実は大変な事が起こっておりまして。あのちょっと見て貰えますか?これ。』
陽太郎はそう言うとポケットから握り締めた物を西野川の前へとそっと差し出したのである。それを見た西野川は絶句していた。
『これどうなってるんでしょうか?こっちに来ても光ったままなんですけど。』
『光ってるね…なんで?』
『いや、わからないんです。これ魔力が世界を渡ってるって事になるんでしょうか?』
二人でそう言い合っていると廊下の向こうから他の生徒が来てしまい、慌てて光ったネックレスをしまったのであった。
『いやぁ…ちょっとこれは、異常事態だよ陽太郎君。少し落ち着いて色々考えてみようか。』
『はい。そうですね。ではまた今夜。』
『うん。』
二人そう言うと廊下で別れて行ったのであった。
『うん。私が持って出ても光ってるよ。』
『ですよね?何でしょうかこれは一体。』
その日の夜いつもの様に異世界にて合流した二人は様々な実験を試みていたのであった。
しかしただ世界を渡っても光っているだけでその他は別に何も起こらないのである。もちろん元の世界で光属性の魔法が使えたりと言う事も無かったのだ。
『要するに、この光の魔力だけが世界を渡ってるって事になるんじゃないかな?』
『世界を渡る光の魔力ですか。これって冒険者ギルドの鑑定の結果は一応光属性が付与されるアイテムなんですけど、ここで着けてても特にそれらしき効果は感じないんですよね。光魔法が強くなったりもしてないですし。』
『私のこれは一応着けてると水魔法の効果が若干上がるからね。普通は属性が付与されてるとそうなる筈なんだけどね。不思議だよねぇ。』
二人はそう言うとお互いに首を傾げている。
『まあ元々が未発見のスライムがドロップした物だからさ、ちょっと普通では無いのは間違いないんだよ。何せ今の所世界に一つだけしかないからね?もしかしたら通常では討伐する事が困難なスライムだったかも知れないんだから。』
『確かに物理攻撃は効きませんからね。でも魔法なら効きましたよ?』
『それもさ?陽太郎君のあの太陽みたいな光球でしょ?あんな威力の魔法普通撃てないから!多分威力的には核撃魔法クラスの威力があるからね?いや…それ以上なのかな。範囲は限定されて狭いけどさ。』
『そんなにですか!?まあ、確かに…ロゼーナさんのナイフを焼失はしていましたけど…。』
『もしかしたらとんでもないスライムだったのかもね?スライムの王様みたいなやつ。』
『スライムの王様…ですか?まさかぁ。それは無いですよいくら何でも。だって大きさも普通ですし全然動きもしませんでしたよ?』
結局二人で色々と考察はしてみたものの、結果は何も解らないと言う結論になったのであった。
◆◇◆◇
小屋の前で目を瞑り立つ西野川は手を広げ集中していく。すると周囲に無数の水球が浮かび上がり身体の周りをぐるぐると回転し始めたのだ。
『ここまでは出来る様になったけどこれでは大した威力も無いんだよね。ウォーターボールが回ってるだけだもの!』
西野川はそう言うと周囲の水球を霧散させた。
『そうですね。水自体には物量としての威力しかありませんからね。どちらかと言うと攻撃より防御に特化してると思うんです。基本水魔法って防御型ですよね?』
『そうだね。氷魔法は攻撃型だけど水魔法は防御に特化してる魔法が多いかもしれない。』
『でも僕は思うんです!水って勢いよく発射するだけで何でも切れる様になるんですよ。工業用のカッターとか知りませんか?世界一の硬度を誇るダイヤモンドをもカット出来るんですよ?』
『それはまあ知ってるけどさ。それを魔法でどうイメージする訳?』
西野川はそう言うと首を傾げている。
陽太郎は立ち上がると手を前に出し集中していく。すると風の刃が飛んでいき正面の木へとぶつかったのだ。
『これが風魔法のエアーカッターです。』
『うん。』
『そしてこれが。ウォーターカッターです。』
スパンッ!
陽太郎の手から発射された水の刃は音だけを残して正面の木を真っ二つに切断して行ったのだ。
それを見ていた西野川は唖然としていた。
『圧縮した水をエアーカッターと混ぜて発射するイメージですかね。出来そうですか?強力な水鉄砲とでもイメージしてみて下さい!』
『全然わからないけど何となくイメージは掴めてる!もう一回やってくれない?』
西野川は何度も何度も陽太郎の放つウォーターカッターを見てそのイメージを焼き付けて行ったのである。すると。
『ウォーター!!カッターッ!!』
スパンッ!
西野川の手から発射音と共に高速の水の刃が打ち出され、正面の木を真っ二つに切断したのである。
『出来たッ!!出来たよ!!陽太郎君!!やったぁッ♡凄い凄いッ♡』
『ちょ!ちょっと!?西野川さん!?え!?え!?何を!!あ!ダメです!そんな!』
ウォーターカッターの成功に歓喜した西野川は、興奮し飛び跳ねながら陽太郎へと抱き着いて来たのである。陽太郎は西野川の良い香りと体温をもろに受けてしまい、頭が一瞬でフリーズするとその場に白目を剥いて立ち尽くしていたのであった。
『ごめん興奮しちゃって!でもまさか気絶するとは思わなくて。笑』
西野川はそう言うとお腹を抱えながら笑っているのだ。陽太郎は興奮した西野川に抱きつかれ失神したのである。
『いえ、大丈夫ですよ。大丈夫です。はい。』
『全然大丈夫じゃないじゃない!陽太郎君は女の子に免疫が無さすぎるよ!ハグだよ?ハグ!ハグで気絶しちゃったらしょうがないじゃない!』
『そんな事を言われても!西野川さんに抱き付かれたら気絶するのは当たり前じゃないですか!』
陽太郎がそう叫ぶと西野川はまたお腹を抱えながら笑っているのである。
『ああ、本当に面白いな。これだもんサリエラさんに揶揄われる訳だよ。』
『サリエラさんと西野川さんでは全く違いますよ!僕にとっては!そう言う問題では無いんです!』
『じゃあどう言う問題なの?』
『え…いや…それはその…』
陽太郎が赤面しまごまごし始めると西野川は呆れて笑っている。陽太郎はここで素直に好きだからと言えたら良いものを、どうしても後一歩の勇気が出ずに言い淀んでしまうのだ。
『まあこれで魔法の練習は取り敢えずひと段落かな!来週からテスト期間だからね。陽太郎君さ?ちゃんとお勉強してる?』
『え!?いや、あのぉ、それは。』
陽太郎が慌てふためいていると西野川がジト目で見ているのだ。
『ダメだよ?異世界にばかりかまけてたら!ちゃんと勉強もして両立しなさい?いい?陽太郎君。もし!赤点を取る様な事があったら異世界立ち入り禁止にするからね?』
『は!はい!しっかり勉強します!』
陽太郎が背筋を伸ばしそう宣言すると、西野川は満足気に頷いていたのであった。
◆◇◆◇
参ったなぁ…すっかりテストの事なんて忘れてた。授業も余りまともに聞いてなかったしな…。
陽太郎は焦っていた。異世界と西野川の事で頭が一杯で完全に勉強を疎かにしていたのである。こう言う時に頼れるのは学年トップクラスの成績を誇る智也しか居ない。陽太郎は藁にも縋る思いで智也へと助けを求めた。
『はあ?赤点を取りそうだと?お前何やってんだよ。しっかり授業を受けていなかったのか?』
『いや、受けてたんだけど…上の空と言うか。何と言うか。』
『ゲームのやり過ぎなんじゃないのか?そんなの自業自得だろ?』
智也はそう言うと呆れているのだ。
『頼む!協力してくれ!何としても赤点を取る訳にはいかないんだ!頼む!この通り!』
陽太郎が誠意を込めて頭を下げ頼み込むと、智也はやれやれと言って協力を受けてくれたのであった。
『どうする?家では集中も出来ないだろ。図書室でやるか?テスト前は放課後も遅くまで解放してるからな。』
『そうだな。そうしよう。』
放課後二人で図書室へと向かうとそこでは結構な人数がテスト勉強の為に利用をしていた。
『結構やってるものなんだな?』
『僕もたまに利用してたぞ?皆んなが集中してるから意外と捗るんだよ。』
二人で席に着き気合いを入れ勉強を始めようとすると、正面の方でニコニコしながら西野川が手を振っていたのである。
『に!?西野川さん!?』
『ゴホンッ!お静かにお願いします。』
『あ、すみません。』
陽太郎が驚き声を上げると眼鏡を光らせた図書委員に注意を受け皆がクスクスと笑っていた。
智也は額を押さえ呆れており、西野川も笑いを堪えながら肩を揺らしていたのだった。
『ちゃんとテスト勉強してるね!偉い偉い!』
図書室の利用時間が終わり皆が帰り始めると西野川がそう言い近付いて来た。隣には友人だろうかショートカットの黒髪に眼鏡をした真面目そうな女の子がこちらの様子を伺っている。
『西野川さんと北村さんも図書室でやってたんだね。』
すると智也が片付けをしながらそう言うのである。どうやら智也はこのお友達も知っている様である。
『うん!私と咲ちゃんはいつも一緒にテスト勉強をしてるからね!解らないところ教えてくれるから助かってるの!』
北村咲!!知っているぞ!?一年からずっとが学年トップを維持してる人物だ!!
陽太郎がそう反応していると北村がじーっと見つめてくるのだ。
『この人は誰ですか?』
そして思いっきり指をさされそう聞かれる。
『ああ、一組の高村陽太郎君!高橋君と幼馴染なんだよ。ね?』
陽太郎は西野川にそう水を向けられ激しく頷いていた。
『陽太郎に赤点取りそうだから協力してくれって頼まれてね。まったくゲームのやり過ぎなんだよ。西野川さんを見てみろ。しっかり勉強もしてるだろ?』
智也にそう言われた陽太郎は羞恥心に塗れまごまごとしているのだが、西野川はジト目で見ており、北村に限ってはまるでカスを見る様な目で陽太郎の事を軽蔑していた。
『陽太郎君?全然勉強してなかったんでしょ?これはちょっと指導が必要みたいだね。よし!私も協力してあげる!高橋君だけには任せておけないからね!』
『ええ!?西野川さんもですか!?』
『何?なんか文句あるの?』
『いいえ!ございません!』
陽太郎と西野川がそういつもの様にやり取りをしていると、智也と北村は唖然として見ていたのであった。
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