第3話 そこで出会った人


 『あれ?すみませんまさかそこに人が居るとは思わなくて!大丈夫でしたか?』

 『あ…いや…その…』

 後頭部を扉で強打し頭を抱える陽太郎を覗き込むのは、まさしく西野川樹里そっくりな人物であり、声までも全く一緒なのである。

 『え?その格好…あなた何者?』

 すると、陽太郎の制服姿を確認した西野川樹里が急に訝しんだ顔をして距離を取ったのだ。

 『いや…僕はその、その中の渦から来ていて…その…あの』

 急に警戒されてしまった陽太郎はしどろもどろとなり、口をまごまごさせてしまう。

 『じゃあこの小屋のゲートから出て来たって事!?って言うかその格好!うちの学校の制服だよね!?』

 するとどうやら言っている事からしてこの女性は西野川樹里本人であると推測した陽太郎は更に焦りを加速させていく。

 『あの…はい…二年一組の高村陽太郎です。に…西野川…樹里さん。ですよね?』

 陽太郎が眼鏡を何度も上げ下げしながらそう問うてみると、西野川樹里はハッとした様に言ったのだ。

 『あなた!昨日の放課後一組の高橋君と一緒に帰った男の子!そうだよね!?違う!?』

 『そ…そうです。高橋智也と居た。高村陽太郎…です。』

 すると西野川樹里はようやく心得たと納得してくれたのだが。

 『でもなんでその高村陽太郎君がここにいるわけ?あのゲートから来たって言ったよね?あそこは私の部屋のクローゼットに繋がってる筈なんだけど!』

 『え!?いや!!僕の部屋の押し入れに繋がっていますよ!!今さっきもそこから入りましたから!!』

 陽太郎がそう言うと西野川樹里は訝しんだ顔をして再び小屋の中へと入って行ったのだ。

 陽太郎がその様子を覗き見てみると、西野川樹里は四つん這いになってゲートを潜り抜けようとしていた。

 その姿格好はなんとも陽太郎には刺激が強く、丸眼鏡を何度もクイクイとしながら見つめてしまう。

 西野川樹里の姿は茶色のショートパンツにお洒落なロングブーツを履いて、上には格好良いサファリジャケットを着こなし、腰にはリアルな短剣を帯剣していた。

 そのショートパンツ姿のお尻が突き出され四つん這いのままゲートへと頭を突っ込んで居るのである。

 そして頭を抜き出すと陽太郎の方を振り向いて言うのだ。

 『ほら!私の部屋のクローゼットじゃない!』

 『ええ!?そんな筈はありませんよ!!』

 『じゃあ見てみなさいよ。あ!余計な物は見ない様に!』

 訝しむ西野川樹里にそう言われた陽太郎は、四つん這いになるとゲートへと頭を潜らせて行った。

 しかしその先にあったのはいつもの自分の部屋の押し入れである。証拠の為に押し入れにあった物を取り出してゲートを再び抜け出ると。

 『やっぱり僕の部屋の押し入れです。ほら、これ僕のですよね?』

 陽太郎がそう言って手に持った本とプラモデルの箱を見せると西野川樹里は唖然としていた。

 『え?じゃあ人によって行き先が違うって事?』

 『恐らくそうなるかと。出口はここに共通されているのではないでしょうか?』

 そう考察を述べてみると西野川樹里は顎に手を当てて考え込んでいる。

 『こんなの初めてなんだけど。今まで一回も無い。私以外の人がこの世界に来た事なんて。』

 『え?西野川さんは…その、いつ頃から?』

 『私?三年前から。』

 『さ!?三年前!?』

 その驚愕の事実に陽太郎は仰け反りながら驚き声を上げたのであった。

 

 ◇◆◇◆


 『うん。取り敢えず理解した。昨日の夜急に君の部屋の押し入れの中にゲートが発生して取り敢えず様子見で入って来てた訳だよね?』

 『はい、そ…そうです。まだこの小屋の周りを歩いただけですけど。』

 小屋の前へ座り改めて状況を整理した西野川樹里はそう言うと立ち上がったのだ。

 『君は慎重な人だね。ここから動かなかったなんて。私なんてその日には村を探して歩き回っていたけど。』

 『む、村があるんですか?近くに。』

 『ここから一時間くらいかな?森を抜けた所に小さな村があるの。ヤットリー村って言う。』

 『ヤ…ヤットリー村?ですか?』

 『でも下手に動かなくて正解かもね!モンスターが居るからこの森には。』

 『も!?モンスター!?』

 陽太郎が再び仰け反りながら驚愕すると西野川はニヤリとして言うのである。

 『この森にはスライムが出るんだよ?ふふふ』

 『ス…スライム?あの、スライムがですか?』

 『うん!ちょっと来てみて!見せてあげる。』

 『え!?ちょっと!待ってください!』

 陽太郎は西野川に誘われるがままに森の中へと入って行った。


 しばらく後を着いて歩いて行くと、西野川が何かを見つけたらしく徐に腰から短剣を抜いたのだ。その短剣は鈍い光を発しており、明らかに本物である事が伺え陽太郎は思わずゾクッとしてしまう。

 『ほら見て?ここに居る。これは普通のスライムだよ。下に落ちてる分には特に攻撃性は無いから大丈夫。』

 西野川がナイフで指し示した先には、木の根元に水の塊の様な淡い水色をした物体がふるふるとその身体を揺らしていたのだ。

 『こ…これがスライムですか。』

 陽太郎は丸眼鏡を何度もクイクイとさせながらその様子を観察した。まさに思っていた通りのスライムその物である。

 『まあ基本無害なんだけど、木の上から落ちて来る時は要注意かな。これに顔を包まれて窒息死する人も居るって聞くからさ?』

 『窒息死ですか!?めちゃくちゃ危険じゃないですか!!』

 『まあでも仮に顔を包まれたとしても、ナイフを使ってここ。真ん中に核があるの見える?』

 西野川がそう言ってナイフを向けた先には、中心に赤く光る何かがあったのだ。

 『そ…それがスライムの核になるんですか?』

 『そう。そしてこれをこうしてナイフで突き刺すと。』

 西野川はそう説明しながらスライムの中心へとナイフを突き刺していった。ナイフの先端が赤い核を捉えるとパリンッと割れたのである。するとスライムの身体が形を維持する事が出来なくなり霧散する様に消えていったのであった。そしてその後には何やら光る小さな鉱石の様な物が残されている。

 『今のでスライム退治は終わりね?それでこれがスライムが落とした魔性石になるの。ほら。』

 西野川はそう言うとスライムの魔性石だと言う鉱石を陽太郎へと差し出して来たのだ。

 陽太郎が恐る恐る手を差し出すと手のひらにそっとその鉱石が受け渡される。

 水晶の様な透明感で大きさは一センチ程の鉱石がキラキラと薄い光を放っていた。

 『それを冒険者ギルドで売ればお金になるからね?一つ五ベリエ!』

 『ぼ!?冒険者ギルドですか!?』

 『ふふふ♪昂るよねぇ?わかるわかる。その気持ち♪君さっき異世界物のラノベ待っていたけど好きなんでしょ?冒険者ギルドとか♡』

 西野川にニヤリとしてそう言われた陽太郎は、魔性石を握り締め興奮しながら何度も頷いていたのであった。



 『君はどうする?』

 『え?はい?何がでしょうか?』

 『いや村まで歩いたら一時間は掛かるからさ?これから往復してたら日が暮れちゃうんだよ。私はこれに乗ってちょっと用事を済ませて来ちゃうけど。』

 西野川はそう言うと、腰に付けたポーチから何やら丸いピンポン玉の様な物を取り出すと徐に前に放り投げたのである。

 すると。ボンッ!っと言う炸裂音と共に煙が上がり陽太郎は木にしがみ付きながら悲鳴を上げていた。

 『あははは!驚き過ぎだから!これが私の愛車。残念だけど一人乗りだからさ。今日のところは帰ったら?武器も無い様だし。村まで歩くなら休みの日とか使って早い時間に来ないと日が暮れると迷っちゃうからね?一応おすすめはコンパスを持って来る事!それを頼りに南西に真っ直ぐ歩いていけば村への道に出るからさ。まあスライムだけには気をつけてね♡』

 西野川は矢継ぎ早にそう言うと、急に現れたバイクの様な乗り物に跨り宙に浮いているのだ。

 『な…なんですかそれは?』

 『これ?ビーターて言うバイクみたいな乗り物!じゃ私急ぐから!またね!』

 そしてゴーグルを掛けてそう言うと、西野川は手を振り颯爽とそのビーターと言う乗り物を乗りこなし森の中へと消えて行ったのであった。

 ぽつんと一人残された陽太郎はただ唖然としていたのである。

 




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