第8話:新たな決意

 神託者の不在、タイロス神の狙い。契約者となったぼくからすれば、不信を抱いて足を止めるには十分すぎる理由だった。


 でも──



「それでも、ぼくの目的は変わりません。皇帝になるために、オルドフェルムを勝ち進み解放戦に臨みます」



 そう、やることは変わらない。あとはその方法だ。

 エボル闘技場を取り仕切るガリさんが味方になったんだ。これから先、八百長で苦労することなく勝ち進む事もできるだろう。



「分かりました。通常の試合ならば、わたくしの権限で自由にカードを組むことができます。適当な相手を見繕いましょう。ですが……」



 指を組み、視線をテーブルへと落としたガリさんの表情は暗い。その理由は、ぼくにも予測できた。

 恐らく……解放戦のゴーレムのことだ。



「解放戦には、皇帝であるクラウリーの意思が絡んでくることがあります。もしドレイク殿の事をクラウリーが……いや、恐らく既に知っているはずです。ならば、クラウリーがゴーレムを送り込んでくる可能性は高いでしょう」



 解放戦の相手は、強力なゴーレムになるかもしれない。今まで見たこともないようなゴーレムと、戦う可能性があるってことだ。



「解放戦のゴーレムは、C級かB級のどちらかになるかと。回避戦でドレイク殿が倒した二体のゴーレムは、B級に区分されていた……ならば、ドレイク殿の敵ではないと思われますが──」

「ガリさん。いくつかお願いがあります」



 遮るように発したぼくの言葉に、ガリさんは少しだけ首を傾げた。


 『皇帝になる』……その為には、クラウリー皇帝を倒さなくてはならない。オルドフェルムも解放戦も、その為の通過儀礼に過ぎないんだ。


 だからこそ──



「ぼくは、今日から牢屋に戻ります」



 ガリさんとミルタンさんが目を見合わせる中、プリ姉だけはうんうんと頷きながら微笑んでいる。


 ここは、戦う者が待つ部屋じゃない。戦士としての自覚を忘れない為にも、ぼくはあの牢屋で試合を待つつもりだ。


 正直、プリ姉と離れるのは寂しいけどね。



「プリ姉はこのまま──」

「アタイも一緒に戻るよぉ」


「え? で、でも……」

「24時間密着取材だしね!」



 一緒に戻ってくれるのは嬉しいけど、ご飯は不味いし、お風呂も入れない。

 プリ姉に酷なことを強要するのも気が引ける。



「あ、でもお風呂は使わせてね。それとご飯も作らせて〜。ドレーくんに差し入れくらい構わないでしょ?」

「えぇ、もちろんです。幸い、プリメッタ嬢は修道女ですからな。宗教関係者として、こことアッシュゲートの出入りを自由にしましょう」


「だってさ。ドレーくんもそれなら構わないでしょ?」

「……うん。ありがとうプリ姉」



 プリ姉が不便じゃないなら、ぼくにとってこれ以上心強いことはない。

 これで心置き無く、次のお願いを聞いてもらえる。



「対戦相手の事なんですが、できる限り強い人を連れて来てくれませんか?」

「なんですと?」



 アリアス大全を見て確信した。世界には、想像を絶するような強者が存在している。

 きっと、クラウリー皇帝もその一人なんだ。


 それに引き換え、ぼくはレガリアに目覚めたばかり。プリ姉のように大壁を飛び越えることも、レガリアを自由に顕現させることもできない。


 そう、ぼくには『魔力』に対する練度が足りない。そして、レガリアに必要な『精神力』も。


 ぼくの鉄輪は4つ。クラウリー皇帝と戦うまで、解放戦を含めてあと5戦……これを無駄にはできない。


 もう八百長はしない。誰が来ても負けるつもりはない。これは、ぼくの心身を鍛え上げる為の戦い……だからこそ、強者が必要なんだ。



「少し時間をください。というのも、このロヴァニアでは、ドレイク殿に見合う戦士は皆無だからです」

「そう……ですか」



 タイロス神も、ロヴァニアでは共鳴魔力が失われていると言っていた。それはレガリアも同じこと。

 ぼくが望むような対戦相手は難しいのかも……。



「ほっほっほ。ですがご安心下さい。案外、強者は野にいるものですよ。ロヴァニアが占領した『祝福なき国アンブレス』の国々……そこには屈強な奴隷戦士が存在しています」



 アンブレス……十二柱の神が守護する大国に属さない、人だけの国だ。神の加護に頼らない、人の力だけで運営される国。

 とはいえ、大国に侵略される格好の的になっているのが現状だけど。



「ドレーくん、人間ってのは凄いんだからね! むしろ神様の加護がない分、アンブレスの地力には目を見張るものがあるよぉ」

「プリメッタ嬢の言う通りです。それに、心当たりもあります。貴方と戦うに値する戦士を連れてきましょう」


「はい! ありがとうございます!」



 その戦いで、ぼくは共鳴魔力とレガリアについて学び直す。そして、万全の状態でクラウリー皇帝に臨むんだ。



「ガリさん、これが最後のお願いなんですが……」

「どうぞ、なんでも仰ってください」



 この最後のお願い……これこそが、ぼくにとって最も重要なお願いと言えるかもしれない。

 それは──



「モーガン……モーガンに会わせてくれませんか?」



 ぼくとミレイアにとって、モーガンは兄同然の存在だった。いつもぼくたちを励まし、導いてくれた親友。


 モーガンには、ぼくの現状をどうしても伝えておきたい。そして叶うなら……また、ぼくを導いて欲しい。


 ……でも、ぼくの言葉にガリさんは眉を顰ませた。



「実は、モーガンにはいとまを与えたのです」

「いとま、ですか?」


「貴方の訃報を聞き、モーガンは大層ショックを受けた様子で私の元へやって来ました。そして、ミレイア殿を探しに行く為に暇が欲しい、と」



 モーガンがミレイアを……。

 そうか。モーガンは、ミレイアが死んだ事を知らないんだ。



「モーガンは、今どこに?」

「残念ながら、行先までは把握できておりません。ですが、早急に人を手配いたしましょう。ドレイク殿が生きておられることも、必ず伝えねばなりませんからな」


「どうか……よろしくお願いします」

 


 モーガンがどれだけ心を痛めたのかを想像するだけで、胸が苦しくなる。


 できるだけ早く、モーガンと再会したい……そう願わずにはいられなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る