第8話:腐敗の歴史【中編】

 ライザール皇国の魔導具技師ガスゴール。


 プリ姉と同じエルキオン公国出身の天才……彼女が造った【M・Dマテリアルドライブ】によって、ロヴァニア帝国の腐敗が始まったのだという。



「帝国は狂喜しました。なぜなら、他国を侵略してまで求めていた動力源の問題が一気に解決したからです。M・Dは多重構造の魔導具……ルミタイトに動力となり得る魔力を補填し、新たな魔石を作り出すことも出来たのです」



「じゃあ、他国を侵略する必要も無くなったんですよね?」



 疑問を口にしてから、ぼくは現状を鑑みた。

 帝国の侵略は収まっていない。ってことは……



「一時期は収まったと言えましょう。ですが、至高の動力源を手にした帝国は、新たなゴーレムの産出に注力し始めました。より大きく、より重く、より硬く……そして、より強く。もはや、単純な労働力という垣根から飛び出してしまったのです」



「強い武器を手に入れたら、試したくなるのが戦士の性なのかもね。帝国はゴーレムを使って、侵略を再開したんだよぉ」



「そんな……」



 ゴーレムの実験。それだけのために他国を侵略するなんて……以前にプリ姉がロヴァニアを悪い国って言ってた理由が分かった気がする。



「M・Dによって、帝国は新たな戦力を手に入れました。ですが、無限の可能性を持つM・Dの全てを引き出したとは言えなかったのです」



 研究が行き詰まったってことなのだろう。でも……



「作った人に……ガスゴールに使い方を教わらなかったんですか? 製作者なら全部知ってそうですけど」



 行き詰まったなら、ガスゴールに聞くのが一番早いと思うんだけどなぁ。

 そんな疑問を投げかけると、プリ姉がため息混じりに首を振った。



「それがガスゴールの策略だったんだよぉ。帝国に伝えたのはM・Dが持つ一部の性能だけ。でも研究が進むと、M・Dが持つ新たな可能性が見えてくる。そうなると他には目もつかない。目の前に最高の動力源があるんだからね」



「プリメッタ嬢の仰る通りです。帝国は足場が崩れているのにも気付かず、天からぶら下がる果実を追い続けたのです。そして、研究に行き詰まった帝国の武闘派は、ガスゴールの身柄の確保に動き出しました」



 えぇ……素直に教えてもらえばいいのに。いやでも、教えないのが策略だって言うのなら、簡単には教えてくれないか。


 そんなぼくの考えを察したのか、プリ姉が補足を入れてくれた。



「帝国にとってM・Dは、貰ったものじゃなくて『奪い取ったもの』なんだよぉ。奪っときながら『使い方が分からないんで教えて下さい!』なんて、プライドが邪魔して言えなかったんじゃないかな?」



 確かに。

 素直に教えを乞うようなお国柄じゃないのは、ぼくでもわかる気がする。



「だからこそ武闘派は、停戦条約を破りライザールへと攻め入りました。ゴーレムという新たな戦力による驕りもあったのでしょう。死に体のライザールなど恐るるに足らず……ガスゴールを力で奪い取りにかかったのです」


「それで……どうなったんですか?」



 ゴクリと喉を鳴らし、ガリさんの言葉を待つ。

 でも、言葉を発する前に首を振ったガリさんの仕草で、全てを察してしまった。





「帝国は敗北しました。この戦いすらも、ガスゴールは予見していたのです」


「ガスゴールも玉璽保持者レガリアホルダーだし、ライザールにはルジーちゃんがいるからね。その頃のルジーちゃんは無名の強者……まぁ舐めてかかったんだろうね」



 玉璽保持者……ぼくと同じ、レガリアに目覚めた人たち。


 ガスゴールも玉璽保持者なのか……って、ルジーちゃんってプリ姉の親友だよね?

 これは100年前の話だ。一体ルジーちゃんって何歳なんだろう。



「この戦いでロヴァニアの主力部隊は壊滅し、ゴーレムに依存した人間が幅を利かせるようになりました。武人としての矜恃は薄れ、依存度は増していく一方。そして数十年後……帝国は、一人の男を招き入れました」



 ピリリとした空気が部屋を支配する。ガリさんの言葉が、ぼくの運命を決定づけるかのように。


 招き入れた一人の男……そう、この男こそがぼくが目指す頂。そして、ぼくが倒すべき──





「名を【クラウリー・ベゲット】。エルキオン公国の魔導具技師であり、現ロヴァニア帝国の皇帝です」

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