探偵の事件簿

@ghamjgd

第1話

 受話器を耳に当てる。ツーツーツー。

「ハロー!探偵助手です」

 思わず声にドキッとする。

「ではご用件をどうぞ」

 息を呑む間もなく俺は声を上げた。

「父さんが死んだのです。その死はきっと裏がある!」

 声が裏返った。けれど俺は続ける。

「探偵さんに依頼します。報酬も差し上げます。どうか父さんを殺した人を見つけてください」

「僕は六番街に住んでいます。後日六番街に来てください。事件の概要をお話します。信用できる人はあなた以外居ないのです」


 ×××


 首都圏を外れたとある街。世界大戦敗戦後、異文化を受け入れ文字通り街はカオスに包まれていた。

 そんな東洋へ西洋が交わり合う街中に一軒のほこりかぶった探偵事務所があった。

「所長!」

 砂金色の髪が凪ぐ。ハイカラや不良と言ったニュアンスを感じる少女はこの事務所の探偵助手らしい。

「留守電にて依頼が来てます」

「zzz......」

 所長と言われる人物は眠っている。これは探偵事務所の所長で英という。

「この牧瀬!探偵助手になって今一番やる気に溢れてます!」

「って起きてください!所長」

「あーわかった!」

 寝起き早々、寝惚けてる所長は声を荒げる。

「そんなにやりたきゃお前がやれ!」

「そんな無茶な」

 その指示は乱離骨灰らりこっぱい、支離滅裂だ、と牧瀬は思った。

「お前には探偵としてのイロハをキチンと叩き込んだはずだ」

「大丈夫。牧瀬ならできるさ」

 所長はそう言ってまた眠り始めた。大丈夫と言われてもマキセの中には漠然とした不安が残っていた。


 ×××


 某時刻。私は六番街へ探偵事務所から、いくらか歩いた。

 この依頼が依頼である信憑性はない。要は悪戯ってこと。それでも私は必死に訴える子供の声が演技には見えなかった。少年の居る六番街を探している理由は他になかった。

「お姉さん何を探しているの?」

 受話器越しの声との再開に私は笑った。

「英探偵事務所です。今人捜しをしています」

 子供はびっくりしたようにこちらを見た。


×××

 

「助手?」

「じゃあ英おじさんは来ないの?」

「所長は今眠っていて」

「眠る?」

「まあ所長が相手する仕事じゃないってことです」

 私は狼狽うろたえる。全く。アドリブ力のない、頭が死んだ会話だ。

「屋敷まで来てくれませんか?先日のこと、事件の概要を話します」


×××

 

「まず僕が誰なのかを話しましょう」

 私達はソファーに座った後、コーヒーを綺麗な女性が置いてくれた。

「僕の名前は石原大せきはらまさる。石原の家系は富豪の筋で普通の人よりちょっとお金持ちです。で、隣にいるのが北里朱里きたさとしゅりさん。お父さんの使用人でした」

「それじゃ、事件の概要を聞かせてくれませんか?」

 大は私に話した。

「事件が起こったのは先日24日。22時に父さんー石原通せきはらとおるはナイフで心臓を刺されて死亡した」

「朱里さんと大君はその時何を?」

「21時45分~10時30分に大様を塾から家へ車で送った後、屋敷の家事をしていました。」

「それを証明できる物は?」

「探偵助手さん。僕が証明できます。朱里さんが家まで運んでくれて居たんだけど、家の時計は10時00分を指していた」

 なるほどお互いにお互いのアリバイを証明できるのか。

「一番街を使用人なしで歩いていたから父さんは死んだんだ」

「犯人に心当たりは?」

「あのあたり22時くらいから人通りが少ないから、情報量が少なすぎて、犯人は分からないんだ。それは他人なのか、父さんの知り合いなのか」

「他に家族は?」

「母は数年前に他界しました。今居るのは使用人の朱里さんと僕とお父さんだけでしたよ。

 ただお父さんには兄弟がいて弟がいます」

「なるほど」

 私は事件の情報をメモした。

「わかりました。それではこの事件、私が調べてみます」


×××


 某時刻。私は一番街にきた。警察の調べは終わり、殺人現場には遺影に花束が置いてあった。

「それにしても赤いな」

 出血量が多かったのか、紅がコンクリートに染みこんでる。

「本当に無惨じゃよ」

 おじさんが通り掛かった。

「愛されてる人じゃったよ。通くんは」

「石原通の知り合いですか?」

「いいや。でも有名人なんじゃよ。彼は」

「有名人?」

「彼が寄付した金で出来た公園は一番街にある。よほどの社会貢献じゃよ」

「なるほど」

 要はよく出来た人ってことだ。

「君は何をしてるんじゃ?」

「この事件について調べていて」

「ニートで暇なのかな?」

「探偵助手です」

 全くさっきまでいい話風だったのに。


×××

「金持ちねぇ」

「心当たりないんですか所長?」

「愛されている被害者。頼れるのは探偵だけ。少し妙じゃないですか」

「それはそうと牧瀬ちゃん。これ持っててよ」

 そう言って貰ったのは一枚の報告書だった。

 読んでみると、そこには石原の遺産相続について詳細に記されていた。

「3年前に石原通の父は死んでる。その遺産は石原通が総取りすることになっていて、7年後つまり後3年で受け取ることになっている」

 これは断然通さんの兄弟が怪しいってことになるな。

「所長、ちょっと出かけてきます!」

 私は踵を外へと続く扉へ翻した。


×××


「単刀直入に言う。私は彼の殺しに関係してない」

 石原優いしはらすぐるなかなかの威圧感に牧瀬はピリピリとした。

「それはどうやって証明できますか?」

「面白い。今の発言、君を名誉毀損で訴えることも可能なのだが、そのルールに則って答えてあげよう」

「私は先日、外出をしていてね。そこは兄さんの居た場所とは違うのだ」

「その場所は」

「東京港区」

「大事なビジネスの会議があって、そこに居たんだ」

「アリバイを証明できる人は?」

「そこに居た全員だ」

 まずいことになったな。これじゃ誰も犯人にならない。


×××


 想定内だ。犯人はどこかに潜んでいる。それを見つけるのが私の仕事。

 それで私は考えた事件の証言で不可解な謎、どこかに綻びがあるような気がして、それはやっぱりあの人の証言にある。

 ......その可能性に賭けるしかないな。


×××


 

「探偵助手さん犯人は見つかりましたか?」

「まだです。今日はもう一回大くんと打ち合わせをしたくて......」

「打ち合わせ」

「聞き込み、みたいなものですね。事件の当日不審な点が無かったのか聞きたいです」

「不審な点ですか、すいません、自分は学校に行ってから眠っていてその日は丸一日動けなかったんです」

「やっぱり」

「力になれず申し訳ありません。」

「大君は十分、事件解決の役に立ってますよ」

「それでもう一つ聞きたいことがあるのですが」


×××


 屋敷には所見で見た光景がある。朱里さんに大くん、そして私は今から犯人を挙げる。

「朱里さん。貴方ですね」

「え?そんなまさか」

 大くんが声を挙げる。それは驚きの声だった。

「貴方は事件当日、大くんに睡眠薬を飲ませて運んだ。水筒に睡眠薬を仕込んだのでしょうか。そして他にもアリバイを偽装した行動がある」

「それは時計を10時に偽装した。塾に問い合わせたところ、貴方が大くんを迎えに来た時刻は20時だった。」

「そして貴方は大くんを家に送り、通さんを迎えに行った。殺すためにね」

「探偵さん、面白いですね。私が通様を殺した証拠はあるんですか」

「それは、灯台もと暗し。決定的な証拠を見つけました」

 私は衣服の破片を提出した。

「貴方はこの屋敷で炊事ゴミ捨て掃除をしている」

「焼却炉にありました。大くんに聞いたところ、これは貴方のコートの残骸です」

「まだ燃えてないところには紅い色が染みこんでる」

「事件現場には大量の血が染みこんでいた。それだけ出血がひどかったってことだ。おそらく、犯人は返り血を浴びている」

「もうお分かりですね。犯人は貴方しかいないのですよ」


×××


 屋敷の中で大君が聞いた。

「探偵助手さん。一つ気になることがあるのですが」

「朱里さんの動機は一体なんだったのでしょう」

「それは共犯者がいたのだと思います」

「共犯者?」

「はい。それは石原優。おそらく彼です」

「彼には十分な動機がある」

「子供だから難しいことはよく分からないです」

「大君、一つだけ約束してくれるかな」

「君はお父さんみたいな立派な大人になるんだよ」

「探偵さん?よく分からないけど、はい約束です!」

 夕日は刻一刻と沈む、牧瀬の探偵としての任務が一つ完了した。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

探偵の事件簿 @ghamjgd

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る