第1話 令嬢が追放されたわけ
そして私は、部屋に戻り、荷造りをしていると、一匹の狐の精霊がひょいっと姿を現しました。
「ご主人…いいのか?あんな言いたい放題言わせて。」
「いいのよ、私が迷惑かけたのも、いない方がいいのも事実だもの。」
実際、私は不幸体質。
それも周りを巻き込んでしまうタイプなので、貴族にとって厄介な人物であるのは確かなのです。
母も長兄もそのせいで亡くなってしまいましたし、後継ぎの次男があのぼんくらでは、どうせこの家は没落します。
そうじゃなくても
「それに、ここで縋り付いて屋敷に残ったところで、数年後、この後父が再婚する相手の借金のせいで没落して、私は売られてしまうんだもの。」
「さすがにそれは被害妄想が過ぎるって。確かに最近入り浸ってるあの女が妙なのは同意だけどさ。」
「被害妄想じゃなくて、未来予知よ」
実際私は、この世界が前世で読んだ小説の世界だってことを知っている。
そして私が転生したのは、悲劇の物語の主人公であるということも。
その物語は、この狐の精霊ムーンが言うように、ここで泣き縋り付いて、屋敷にとどまった結果。
借金のかたに売られてしまうという物語に結びついてしまうのだ。
一応、最後の主人に恋をして結ばれるというハッピーな展開はあるけれど…まぁ許されない来いってことで心中しちゃうのよね。
ひと時の恋のために頑張る気力は私にはないので、さっさと離脱するのが吉だと思って、この追放を受け入れたのです。
それに、この後再婚する継母にいじめられるのも嫌だしね。
タイミング的にはサイコーなのです。
「だけど、これからどうやって生きてくんだよご主人。未来予知してたんなら、この後どうするか計画立ててんだろ?」
「それが…思い出した…いや、予知できたのがついさっき殴られた時で…」
「ついさっきかよ!じゃあノープランか!?貴族令嬢が何のスキルもなし生きていくのは難しいぞ。」
「そうねえ…マシュマロは大量に用意したから…精霊餌付けして、モフモフしながら旅でもしようかな」
「計画性のない旅だな!!」
「冗談よ。でも精霊関係の仕事はするつもり。ほら、精霊師とか。まぁギルドに登録しなきゃいけなくなるけど…。」
「なんだよ、パーティー組んで戦うつもりか?ご令嬢が?」
「別にギルドにはこだわらないよ。精霊カフェとか開いてもいいし。鞄一つに入る量なら持ってっていいって言われてるし…宝石いくつかもってけば資金になるでしょ。」
「ふーん…じゃあオイラもついてく。」
「いいの?このままここにいれば、くいっぱぐれはないんだよ?」
「籠の鳥ってやつは嫌いなんだ。性に合わない。それに、ギルド登録にしろ、カフェ開店にしろ、精霊が一緒にいた方が何かと話が付きやすそうだろ?」
彼の言うことには一理ありました。
精霊師として、精霊と仲良くなるにしても、カフェにするために精霊をいっぱい呼び寄せるにしても、精霊の仲間がいることはとても心強いです。
こうして狐の精霊ムーンの言い分を聞き入れた私は、街に繰り出したわけですが…
この後、私たちはいかに世間知らずで、世の中そんなに甘くないということを実体験することとなりました。
しかし人生とは上手くいかないもので…
まず、ギルド登録の夢は、年齢オーバーでアウトでした。
ギルドに入るためにはそれ専用の学校か養成所を出て資格を取っていなきゃ登録することすらかないませんでした。
当然、冒険ギルドに入るための教育なんか受けていない私に資格はありませんし、
それらの学校に入れる上限の年齢が10歳なのです。
16の私には、難しいことでした。
だったら精霊カフェだ…と思ったのですが、運悪く、屋敷の近くの町には空き店舗がなく、他の町まで足を運ばなきゃなりませんでした。
他の町に足を運んだ結果…空き店舗はあったのですが、普通にお金が足りませんでした。
働き差を探すも、この不景気、未経験の私を雇ってくれるお店は、何かと
どうしたものかと、街の中心で狐の精霊ムーンと話し合いのさなか…ムーンは行き詰ってしまい
ストレス解消のために特技を披露しました。
その一芸に興味を持った人たちが集まってきてくれて、大道芸と勘違いしたお客様たちから、投げ銭をもらいました。
これだ!!と思い、しばらくは大道芸でお金を稼ぐことにしたのです…
それでもお金はなかなかたまらないので、私は前世の知識でキャンプ道具をそろえ、節約のために野宿をするようになりました。
前世で趣味だったんです、ソロキャンプ。
まさか転生した後に、当時の知識が役立つとは思いませんでした。
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