黒の加護者~嫌われものから加護を受けたおっさんのセカンドライフ~

高山 佐奈

第1話 黒の加護者

ガラガラ~パンパン!

「はぁ~…新しい良い仕事と職場に出会いがありますように‥!」


少し小高い丘の上にある、古びた神社。

人はあまり来ない場所。その日はいつもにもまして人の気配を感じなかった。


いつものように賽銭を入れ、鐘を鳴らし

二礼、二拍手、一礼をしてから願い事をする。

これが僕の最近の朝の日課である。


僕の名前は「武神たけがみ さとる

40代前半のおっさんである。

ちょっとしたいざこざがあり先日会社を退職した。

人付き合いが上手い方ではなく人間関係でもめてやめる事となったのだ。


「お前は駄目だ!」「お前は嫌われている!」


と揉めた相手に毎日のように言われると、いくら気にしないようにしてても心が折れてくる。


「お前がやりたくないと言ってやらない仕事を、こっちは気を使ってやっていたんだぞ? ふざけるなよ!?」

なんて一言ぐらい、辞める前に言い返してやろうかと思った事もあったけど、我慢して言わなかった。我慢と言うか、もうどうでもいいと言う気持ちになってしまったのだ。


これまで何年も頑張ってやってきた仕事だったけど、気持ちが折れると早いもので、上司に退職願いを即時提出しに行った。提出後、上司は驚き慰留され、説得してきたが、頑なに拒否したので退職する事ができた。

身勝手だと言われるかもしれないが、このままあの人に気を使いながら一緒に仕事をすると言う事は出来ない。それにあちらも顔を会わす必要がなくなるのでせいせいするだろう。それに辞めるまでに必要最低限の引継ぎなどは当たり前の様にした。問題はないだろう。


辞める前にこれまで関係があった各所に連絡いれた。すると、とても驚かれ一緒に仕事が出来ないのは残念だと言われた。また何度もお礼を言われた。これまで取り組んでいた仕事に対する姿勢や対応が間違っていなかったんだろうと思えた瞬間だった。


そんなわけで今は無職である。

パートでもなんでもいいから何か職を見つけないとなと思いながら、就職活動をしているのだが、なかなか決まらずやきもきしていた。


仕事のストレス解消と運動不足解消の為にウォーキングを数年前から毎日している。

ウォーキングはダイエットや身体を鍛える事には向いていないが、ストレス解消とちょっとした運動にはなっている。やりだしてから体重が減り、気持ちが落ち込む事が少なくなった。今は就職の事でやきもきする事はあるものの、落ち込む事はなく前向きに頑張ろうと思えている。ウォーキングのおかげだろう。


そんな日課のウォーキングのルートに入れているのがこの神社なのだが、仕事をしていた時は、休みの日以外は夜歩いていたので、表の鳥居の前からお参りをしていたのだが今は朝しているので、中に入ってお参りをしている。


そんな日課を今日も何時も通りしていると、


カァ~!カァ~!


と一匹の鴉が鳴きながら、社の上に舞い降りた。

その鴉は綺麗な色艶をした少し大きめのからすで、つい見惚れてしまった。

はっと我に返り鴉に声をかけた。


「君、綺麗なからすだね!」

と声をかけた。すると。


カァ~!!


と一声鳴き、自分の近くに舞い降りてきた。

大きめのからすだったので一瞬驚いたが、よく見ると瞳も綺麗だった。


からすは昔から、ゴミを漁る、畑を荒らす、ホラー等の薄気味悪いシーンで登場するなどのイメージが植え付けられているせいか、いいようには見られない事が多い。人間にとって、有害と感じる生物は全て悪しきものと印象付けられてしまうので、仕方がないのかなとは思うものの、彼らもよく見ると可愛らしい顔つきで愛くるしさを感じる。


「君達は本当は綺麗で可愛らしい生き物だね!じゃあ、お願い事もしたし自分は行くよ!」


と思った事をその鴉に言い、去ろうとしたその瞬間の事だった。

急な頭痛が起こり、僕はその場で膝をついた。


「「からすの加護」を取得しました。」


と頭の中に声が響き渡る。

何事か!? と驚き、目線をさっと前に向けるとさっきまで目の前にいた綺麗な鴉はいなくなっていた。

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