聖女召喚されたらなぜか「夫」がついてきた
@satoika
第1話 聖女召喚と聞きました。
「ようこそお越しくださいました。聖女様」
白いローブを身にまとった黒髪の神官達が恭しく頭を下げる。その後方には豪華な衣装を纏ったいかにも貴族的な立ち位置の男達が勢揃いしていた。
辺りを見回せば、部屋は天井から床板まで白亜の総大理石造りで、私は秒で納得の境地に至る。
あ、これ異世界転移ってやつだわ。
……。
はい、2回目です。
召喚2回目です。
五体満足な己の身体と、持ち物の肩掛けバッグがちゃんと一緒に転移された事を確認して、最後に聖女結界を作動させる。
魔力が減った感覚があるため、問題なくこの世界でも魔法が使えると知る。
が、次の瞬間、パチンッと結界が揺れた。
結界の一部が黒く変色している事から、なんらかの魔法攻撃をされたのだとわかった。
「今、何しました?」
「え?…」「いえ、私共は何も……」
神官達は面食らった様子で顔を見合わせる。
となると、一定の距離をあけて取り巻いている後方の連中の誰かという事になるが……。
「聖女様に魔法を使った奴がいるぅ〜ミオお姉ちゃん、あいつら契約違反だよ!!」
後方から聞き覚えのある声がして、振り返る。いつからいたのか、金髪の美少年王子がキャッキャッと弟ムーブで、はしゃいでいた。
神様ですらひれ伏しそうなほどの飛び切り極上の西洋系美少年ーー……二次元以外で存在しえない全てが完璧なパーツで作り上げられた王子様!
花弁のごとく美しい唇から紡がれるのは、高すぎず低すぎずの理想的な少年王子様イケボ!!!
……って……すごく見覚えのある美少年ショタなのだが??
この展開も2回目だよね?
……。
丁度、買物に一緒に出かけ所だったので、とっさに召喚に割り込んだのだろう。
とりあえず、割り込み召喚だとこちらの魔力が使えないらしいので、私が聖女結界をかけ、ダメもとで『祝福』を唱えてみる。
「どうですか?」
「うん……元の5分の1って感じだけどいけるっぽい。多分ミオお姉ちゃんの魔力を変換して使っている感じなんだろうね。女神の使徒の信徒扱いでパスが繋いである感じかな? 眷属扱いなのかも」
私の魔力量を越えて変換できないということだろうが……5分の1程度でも元の世界の魔法を使えるのは結構な抜け道だと思う。
「早く統治変えしようよー」
「いやいやいや、ウィル様、面倒ごとを増やすのはやめましょうよ!!またヴェネ様が連日、きちゃいますよ?!」
我が国の全国民がすでにヴェネ様信者になったからか、最近はヴェネ様の『神格あがったんですぅ』という報告がなくなった。しかし時々やってきて『あの頃の成長する日々が忘れられない……』と懐かしむようになった。
また統治権がある星を手にしたら、ヴェネ様の報告がうざいくらい続く予感がする。
「たしかにね……」
ウィル様の目から光が消えた。
もう一ミリもこの世界にいる価値がないと判断したのだろう。
「せ、聖女様……そちらの方は?」
「なぜ2人もいるのだ?」「聖女は少年でもなれるのか??」「少年の聖女もアリでは?」
こそこそと小声だが、いくつかの内容ははっきりと聞こえてくる。
「えっと、彼は私の『夫』です。怪しいものではありませんよ」
私の偽りない自己申告にどよめきが大きくなった。
「お、お、夫?!」「夫??」
神官達がウィル様を髪の毛からつま先までじっくり観察し、互いに顔を見合わせる。
驚かれるのは少年姿このナリだから仕方ないことだが、書類制度上は私の『夫』で間違いない。
お友達結婚みたいなもので、夫婦的な関係はないが、大切なパートナーだ。
「聖女が結婚だと?!あの年増は生娘ですらないのか?!」
「信じられん、稚児趣味の変態女ではないか?!」
何やら失礼な言動が聞こえるが、大らかに受け流そう。面と向かって人を罵るのが初対面の挨拶という異世界常識はどうかと思うが、いちいち目くじらたてるほど私は子供ではない。
なんせ、異世界2回目だからね!!
経験からくる寛容度心の余裕が違うのだよ?
今の私には聖女結界最強武器があるからね!!
「とりあえず召喚理由を教えてもらえますか?」
「いえ、あの……」
一番偉そうな中央にいた神官に視線をロックオンして、問いかける。
聖女の本来の召喚理由である魔力溜まりの管理関係の知識を教えて欲しいと言われたら、まぁ、ウィル様に聞けばすむだろう。
第4界事情は知らんので丸投げさせてもらう。
ってか、冷静に考えたら『聖女召喚』で、なんで『聖女モドキ』の私が召喚されてんだ?!
私『聖女』ではなく『聖女戦士』だから別物なんだが??
あと召喚名簿に私の名前は載っていないはずだ。
神殿には以前ほどではないが、召喚名簿に名前を連ねている『聖女』がちゃんといる。
なんで彼女たちを差し置いて、私が召喚されているんだろうか……あとで、ウィル様に確認してみよう。
「えっと……貴女は聖女様……?? なのだろうか?」
「『聖女召喚』しましたよね?」
「……」
神官達が無言で視線を交わし合う。
「その者は聖女ではない!魔物だ!」
「そうだ、そのような年増が聖女のわけがない!! 即刻斬り捨てて儀式をやり直すのだ!!」
「そうだ、そいつは魔物だ!!聖女などではない!!」
後ろのモブ達がイキリ始めた。
「皆様、落ち着いてください。ここは神殿です。女神様の御前でございますので、言葉は何卒慎むようにお願い致します」
神官が、好き勝手言い出すモブ達をなだめにはいる。
なんか、ギャラリーが多いと色々とまとめるのも大変そうだな。
と思っていると、ウィル様が足元の床板をはずし始めていた。そして金の板『協定書』を取り出す。
「あれ?……統治権が出てこない?? ミオお姉ちゃんが魔法攻撃されてない判定??」
「??」
ウィル様が立ち上がると、私の結界の黒くなった部分に触れる。しげしげと観察するとやがて、ポンと手を叩く。
「鑑定だね……攻撃魔法じゃないからグレー判定だったのか」
私の結界は魔法に反応して変色するようになっている。魔法攻撃っぽくない魅了系もガッチリ反応するようにできているので『鑑定』をかけられた事に反応したというのも納得だ。
「私の国では、個人情報を同意なしに盗むのは犯罪なんですが……『攻撃』の基準が甘すぎません?情報収集も戦の第一歩ですよね?」
「この板作ったのが女神様だからね……ほら彼女達は露出狂ぎみの所があるから、ミオお姉ちゃんと違って自己情報開示は罪っていう意識は薄いのかもね」
「……たしかにそうですね……」
逐一、自分情報を公表して神官達から『いいね!』をもらうのが生き甲斐という女神達だ。
女神達が与えたスキルや称号も『ドヤ顔』で自慢して回って欲しいのかもしれない。
『女神すげぇ!』という思いは、信仰心に直結するので、ガンガン広報しようぜ!が、異世界女神の行動指標である可能性は高い。
「聖女様……大変恐縮なのですが、聖女様である証拠は……何かございますか?」
モブ達が少し落ち着いたのを見計らってか、神官がおずおずと言葉をかけてくる。
「『女神』様の力を使用した『聖女召喚』で召喚されたという事実すら疑ってかかる相手に、何をもって証拠にできると?」
「っっ」
「女神の力が神官から疑われてるとか、うけるぅ〜」
「ち、違います。我々は女神様を疑ってなどおりません」
「女神様のお力を疑ったわけではありません!!」
即座に懺悔印なのか真実の宣言印なのか、空中に印を結び否定する。
大丈夫だよ。君らが思うほど女神は世界には干渉しない生き物だからね。
「大変その……申し上げにくいのですが……聖女様は、未婚の若い女性であると……伝えがありまして……」
「因みにこの国に『勇者』はいますか?」
「え?……は、はい。おります!! 勿論です」
「では、勇者は一生涯年を取らない若い男性ですか?」
「いえ、人間ですので寿命は同じです。魔力保有が高いので多少は老化が遅いですが」
「では、聖女だけ未婚の若い女性であり続けると信じている根拠を述べてください」
「「「……」」」
悪いが、私は、男のロマンに付き合ってやれるほどの寛容なご都合主義は持ち合わせていない。
男は年取っても『勇者』、女は年取ったら『聖女』剥奪というご都合システムは断固認めない。
「もし、その伝えが真実だと言うならば、この世界の今までの聖女様は、人間でなく魔物の一種だったのではと推測できますが……退治しましょうか?」
大丈夫?
幻術的な魔物に騙されたんじゃない?
神官が召喚でうっかり、魔物呼ぶとか、末期すぎる事案だけど? 歳をとらない聖女がいるなら、それは人間じゃないから、退治してあげるよ? こうやって召喚されたのも何かの縁だしね?
「少々、お待ち頂いてもよろしいですか?」
「どうぞ」
神官達が少し離れた場所に集まって、こそこそと何やら相談を始めた。
3分少々待たせられたが、静々と神官が戻ってきた。
「聖女様の故郷には、他に何人くらいの聖女様がおられますか?」
「20人以上ですね」
「その中にご結婚されていない方はどのくらいおりますか?」
「10人以上はいますけど、処女かどうかは勇者の童貞と同じくらいの確率だと思いますよ。『勇者』と『聖女』は同じくらい人気職なんで」
「……っっ」「!!」
神官達が真っ赤になった。
そして、後方のモブ達は明らかに落胆した様子だ。違うトーンのどよめきが広がった。
うむ、この国の『勇者』はやっぱりモテるらしい。対魔物最強兵器だから英雄視が強くなるので、天職補正といっても差し支えない。
「……その……こちらの世界では、女性は結婚するまでは貞操を守るというのが常識でございまして」
「その常識を異世界に押し付けられても『そうですか』という言葉しか返せませんね」
「……い、いえ、その……できれば少々ご配慮いただけないかと……」
「……」
「私共が今回聖女召喚を致しましたのは、魔力溜まりの浄化と勇者様との婚姻相手として聖女様が適任と考えたゆえです」
勇者の婚姻相手となるようなこっちの常識的に未婚になるような聖女を呼びたいと。
なるほど、そのご配慮が欲しいと?
「因みにこの世界の『勇者』は1人なんですか?」
「いえ8人ほどおります。未婚なのは4人です。聖女様と相性の良い方をと思っておりますので、聖女様の意志が尊重されるように整えさせていただきます」
「この世界って4大国らしいよ。多分、大国にうまい具合に1人ずつ未婚の勇者がいて国力拮抗しているんだろうね」
このギャラリーの数から考えても、あまり切羽詰まった状況にはなく、四大国仲が良いんじゃないかと思われる。
このくだらない勇者の嫁探し的な理由でも統治者の全サインが手に入って、聖女召喚が実行されてしまうほどだ。
勇者婚活のための聖女召喚……。
前回も、似たような勘違い系召喚だったが……目的が殺して血肉を撒くよりはましか……?
もう『聖女』という名前をやめて『魔力溜まり管理者』召喚とかにした方が良いと思う。
『勇者』がいる時点で、人力系マンパワーの男権社会とお察しできるため、最初から立場が見下されている『女』がつく天職はよろしくない。出だしからなめられてばかりだ。
『勇者』や『賢者』は最終兵器と認識している彼らが、同じ召喚で呼ばれる『聖女』に同等の注意を払っていないのは明らかだ。
勇者を一本背負いしながら腕をへし折るような聖女モドキに物理的制圧される危険性など微塵も考えていないのだろう。
「とりあえず本来の召喚の目的外使用のことが確定しましたので、契約違反ですよね?」
「うん、契約違反だね。統治権変更欄出てきたよ」
うん、出てきたか……。まぁ。出てくるよね。
目的外召喚だからな……。
召喚は、契約完了まで召喚された者が、帰国ができない仕組みのため、目的を遂行できる状態・目的外召喚だと判明した時点で契約違反と認定される。
召喚目的を事前申告させて、そぐわない場合、術が発動しないようにすれば良いのでは?と思うが……女神様は性善説なので、人間が本来の目的以外で召喚をするわけがないと考えていて、制限をつけていない。
「あ、条件がわかった!勇者と同等の最強の聖女だって!ミオお姉ちゃんが呼ばれるわけだね!」
「若いとか美人とかもっと目的にあった条件ありましたよね?なぜよりによって最強を?」
勇者と同等の最強をお望みとか、この国は脳筋なのだろうか?
とりあえず、勇者と同等の戦士無双持ちの聖女が私の他にいるわけもないので、私が呼ばれた理由がわかった。
女神様が作る協定書はガバガバシステムだが、界全員の女神の力が注がれているため効力だけはある。前回は、界をぶち抜いて私を召喚したくらいだ。最強聖女として呼び出されたことに不思議はない。
「最強に美人とか、最強の嫁スペックとかの意味で使ったのかな? 欲張りすぎて本旨を見失った感があるけど」
「勇者と同等のは完全に余計でしたね……それがなかったら、私は呼ばれなかったはずです」
私には、ガチで勇者とタイマンはれるスペックあり、正しく勇者と同等だ。
せめて『最強の聖女』なら上位互換の『大聖女』が召喚される余地があった。
「たしかにーー……まぁ、うちの大聖女様が来ても既婚者だったし、あっちはあっちで魅了チートが、ヤバいから秒で話し合いが終わった感はあるよね」
大聖女様は、レスフォンス様の奥様だ。
魅了チートスキル持ちのため魅了への耐性が強く、レスフォンス家の嫁に望まれた理由でもあるとか……。
遠巻きだが、為政者っぽい人達もいたので、たしかに魅了スキルで一気に洗脳すれば、話し合いは秒でついただろう。
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