高次脳機能障害についての覚書

hekisei

第1話 はじめに

 本稿は高次脳機能障害についての覚え書きだ。

 なぜ、このような物を書くに至ったのか。

 その話からしたい。


 筆者は脳神経外科医として働いているが、医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)の勉強会の講師を依頼された。

 主として救急にかかわるMSWたちだ。

 問題は、テーマをどうするか、という事になる。


 そこで、救急で治療した後も数年に渡ってMSWの手を煩わせる事になる頭部外傷後高次脳機能障害について語ることにした。

 勉強会では、最初の1時間を頭部外傷症例の典型的な流れ。

 次の1時間で応用編や思わぬ落とし穴について述べることとなった。


 勉強会まではまだまだ日数があるので、その準備も兼ねて頭部外傷についてここに述べたいと思う。

 カクヨム読者が理解できるよう、平易な言葉で書くつもりであるが、疑問点があれば遠慮なくコメント欄で質問して欲しい。

 質問にお答えするとともに本文改善の参考にさせていただきたい。



 まずは高次脳機能障害発症の原因疾患から。

 圧倒的に多いのは交通事故による頭部外傷だが、その他に転落・墜落、喧嘩で殴られた、脳卒中、有毒ガス中毒なども原因としてある。


 ここでは交通事故による救急搬入からの典型的な治療の流れを述べたい。

 遠い昔に筆者が救命センターに勤務していた時代を思い出しながら書いていこう。


 当時は救急搬入があれば館内に音楽が流れ、当番の医師・看護師と手の空いている者は初療室に集まることになっていた。

 日中なら10人以上が集まるし、夜間だと医師2名、看護師2名、放射線技師1名、臨床検査技師1名、といったところ。

 やがて救急車のサイレンの音が近づいてきて搬入口に停まる。

 ストレッチャーに乗せられた血まみれの患者が搬入されるわけだ。


 最初にやる事はだいたい決まっているので、医師・看護師などの医療スタッフが手分けしてそれぞれの仕事にかかる。

 意識レベルと生命徴候バイタル・サインの確認、採血とルート確保、救急隊対応、必要に応じて気道確保といったところ。

 最近の交通外傷では脊椎が厳重に保護されている事が多いので、固定装具を外すのが最初になる。

 交通事故の場合、頭部単独外傷よりも多発外傷の方が多い。

 だから損傷部位と程度を評価して治療の優先順位を決める必要がある。

 胸部、腹部、頭部、四肢の順に優先されるのが一般的だ。


 以下、筆者の専門である頭部外傷について述べる。


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