下層スラムでガラクタを修理していた転生者はあらゆる魔術を〈再現〉し、世界最高の魔術師へと至る〜原典魔術の創造者〜

御子柴奈々

第一章 下層荒廃都市〈クレイドル〉

第1話 ガラクタ拾いの少年


「お! これは使えそうだ!」


 俺はガラクタになった魔道具を拾い、その奥をじっと覗き込む。そこにはキラキラと輝く光があった。


「アレンってば、本当にここが好きだよね」

「だって、これだけの魔道具だぞ!」

「でも、全部上から降ってきたガラクタだよ」

「ふふ。俺はまだ使える魔道具を見つけるのが得意なんだ!」

「それはそうだけど……ま、早く探しましょう。最近はあまりお金もないから」

「あぁ!」


 幼馴染のライラと一緒に俺はまだ使える魔道具がないか探す。


 ここは〈廃都の谷〉と呼ばれる場所で、不要とされた魔道具の残骸がまるで山のように積み上がっている。


って、どんな世界なんだろう。ライラはどう思う?」

「さぁ。私たちには関係ない場所だよ」

「それもそっか」


 空を見上げれば、霞むほど高く浮かぶ上層魔術都市〈セレスティア〉の影が見える。魔術師たちが住んでいる場所らしいけど、俺たちには関係ないところだ。



「これは……使えない。これも。これも。ん? これは使えそうかも……!」


 まだ使える魔道具を拾ったり、修理したりする。それを売って俺たちは何とか生きていた。


 俺には一応前世の記憶があるけど、ほぼ寝たきりのまま病気で死んでしまった。そして、この異世界に転生したけど、なんの才能もないただの凡人。唯一得意なことは、まだ使えるガラクタを見つけることだけ。



「よし。今日はこんなもんか」

「私もテキトーに集めたけど、使えるかなぁ……」


 二人でボロボロになった袋に魔道具をたくさん入れた。


「でも、アレンが見つける魔道具ってほとんど動くよね。何か見つけるコツとかあるの?」

「うーん。〈キラキラ〉が見えるだろ?」

「キラキラって……なに?」

「え。魔道具の奥に見えるキラキラしたやつだよ。それが残っているのは、まだ動く。でも、キラキラを見つけるのは難しいけど」

「ふぅん。やっぱ、アレンって変だよね」


 俺たちはその魔道具をとある場所へと持っていく。冒険者ギルドで売買もできるけど、今日はお世話になってる知り合いの所に行くことにした。


 俺たちがたどり着いたのは──〈モルド工房〉と呼ばれる場所だ。


 そこは崩れたレンガ壁の上に、大小まちまちな鉄板を無造作に打ち付けただけの小屋がある。


「モルドさん! 今日も来たよ!」


 モルドさんは真っ白な髭を蓄え、いつもの作業服を着ていて頭にはゴーグルをつけている。


「……こいつは燃えすぎだな。魔術式の暴走か。あるいは……いや、あのガキが持ってた欠片のほうが合うか」

「モルドさーん!」

「ん? あぁ。アレンか。今日も持って来たのか?」

「うん! ライラも一緒だよ」

「こんにちは。モルドさん」

「ちょうどいい。二人の素材を見てやろう」


 モルドさんは魔道具の修理や分解を仕事としていて、ガラクタを買い取ってくれたりもする。


「だめ。だめ。だめ。いい。ライラが持って来て使えるのは、これだけだな」

「えーっ! うーん。やっぱりダメかぁ……」


 モルドさんは次に俺が持ってきたガラクタを見てくれる。


「いい。いい。だめ。かなりいい。いい。いい。かなりいい。おい──アレン」

「ん? どうかした。モルドさん」

「お前……やっぱ、何か道具を使ってないか?」

「道具って何の?」

「使える魔道具を見つけるものだ」

「ううん。普通に視てるだけだよ」

「……そうか。じゃあ、まとめて買い取ってやるよ」

「やったー!」

「むぅ……」


 俺とライラはモルドさんからまとまったお金をもらう。


「また使えそうなものがあったら持ってこい」

「うん! ありがとう。モルドさん!」

「あぁ。俺はまだ作業がある。またな」


 そして、俺たちはモルドさんの工房を後にする。ちなみに売れなかったガラクタは、いつも家に持って帰っている。


「はい。これ」

「う、うん……」


 俺はライラに麻袋に入った金を渡す。でも、なぜかライラの顔は暗くなっていた。


「どうしたんだ。ライラ」

「いつもアレンばっかお金稼いでるから。その……私が管理してもいいのかなって」

「いいよ! だって俺は、お金の管理なんてできないから!」

「そんな自信満々に言わなくても……」

「俺ができるのは使えるガラクタを見つけるだけだから。適材適所ってやつだよ」


 俺とライラは二人ともに孤児だ。昔は孤児院で暮らしていたけど、十歳になってから出るように言われた。それからは二人で協力して何とか暮らしてる。



「さて、今日は何を買おうかなー」

 

 瓦礫の隙間を縫うようにして細い通路が続き、その先に人々が集まる市場があった。

 そこで食料を買う。それが俺たち下層で生きる人間の日常だった。


「今日はパンとチーズを買えたわ。ちょっとおまけもあるし。これで一週間はいけると思う」

「おぉ! 流石はライラだな!」

「まぁね」


 俺たちは帰路へとつく。骨組みだけが残った廃墟はいきょが俺たちの家だった。


 その中央には布で覆った簡易ベッド。廃材で作った棚。火を焚くための鍋と魔力灯の残骸がある。


 ライラは早速、パンとチーズを焼いてくれた。


「うま……っ!」

「うん。美味しいわね」

「いやぁ、ライラがいてくれて本当に助かるよ」

「べ、別に……当然のことをしてるだけだし」


 この生活は大変だけど、辛いと思ったことはない。だって俺にはライラがいるし──何よりも、ガラクタをいじるのは好きだから。


「私は寝るから」

「あぁ」

「ガラクタいじりもほどほどにね」

「うん」


 俺はベッドに腰を下ろして、モルドさんがもう使えないと言っていた魔道具をいじる。前世の時に病室でパズルをやってた影響もあるのか、こっちの世界でガラクタをいじるのは得意だった。


「よし。これをこうして……と」


 このガラクタは全体はくすんだ鉄色で、中央には砕けかけた魔力石が嵌め込まれている。


「うん。こんなものかな」


 出来た。全体的に歪でグラグラしてるけど、これならきっとまた使えると思う。


 魔道具の奥底。

 その深奥に宿る輝き。

 キラキラと輝くその美しさに心を奪われていた。



「──魔術って、どんなものなんだろう」



 でも、俺には魔術なんて関係のないものだ。そう思って静かに目を閉じる。


 けれど──まさかその〈魔術〉が、自分の運命を大きく変えることになるなんて。

 この時の俺は、知るよしもなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る