エッセイ

千早さくら

田 圃

 田舎に住んでいるので、家の周辺には広々と田圃が広がっている。そんな場所で育ったせいか、田圃は一番気に入っている場所だ。


 春、田圃はレンゲの花で赤紫に染まる。所々にタンポポやシロツメクサも咲いて、黄や白のアクセントを添える。子供の頃には、レンゲの花の中に座り込んで花輪を作ったりしたものだ。また、セリやヨモギも生えているので、摘んできて料理や菓子に使うこともある。やがて田起こしが済み、水が入ると、田植えの時期である。すると田圃は淡い緑色になる。瑞々しい柔らかな緑だ。


 梅雨が終わると、すっかり丈の高くなった稲は色濃くなり、田圃はすがすがしい濃い緑色になる。それと競うように、空の青も濃さを増す。じりじりと照りつける太陽の下で、草いきれと涼しく吹く風の中、蝉の鳴き声を聞きながら、蝶やトンボと共に畦道を散歩していると、いつの間にか足は止まり、ただ静かに立ちつくす。すべてがあまりに鮮やかな季節だ。


 九月になれば、田圃は少しずつその色を変えていき、やがて一面に黄金色の広がりとなる。空も風も透明感を増し、それが稲穂をいっそうキラキラと輝かせてみせる。風が冷たくなる頃、稲刈りが行われる。刈った稲を束ねてから、竿に掛けて日干しする様子は、冬が近くまで来ていることを告げている。


 冬の間、田圃はからっぽで、子供たちの格好の遊び場だ。広々としていて、電線もなく、車も通らない。わたしもかつては凧揚げをしたり、飼い犬と走り回ったりした。子供たちが遊ぶその足下で、田圃は静かにゆったりと眠る。次の一年を迎えるために。


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文章教室の課題で書いたもの。

テーマは「好きな場所」で、文字数の制限は 800 字以内でした。

短くまとめるのに難儀した記憶があります。

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