第7話「10年後のポストカード」

Promise:10年後の自分にメッセージを送る


「10年後の俺って、どんなふうに笑ってるかな」


放課後の教室で、リクはふとそんなことを呟いた。

周りの机はすでに空っぽ。日が傾いて、ガラス窓に夕焼けがにじんでいた。


「記録希望として処理しますか?」


となりで静かに座っていたのは、AI〈タイム〉。

時限保存機能を搭載した記録用ユニットで、ある時間を設定することで、そのデータを“未来”まで封印し、指定した日にのみ開封できるという特殊な能力を持っていた。


リクは、タイムの瞳の奥にある青いリングがゆっくりと回転しているのを見ながら、少し考える。


「じゃあさ……10年後。18歳の俺に、手紙を送れないかな?」


「可能です。テキスト形式、音声形式、映像形式から選択できます」


「うーん……音声で。いまの声、残しておきたい」


タイムは軽く頷くと、小型の録音装置を起動した。

ノイズキャンセリング、声の震えや強調語も忠実に保存される。


リクは深呼吸して、口を開く。


「――やあ、10年後の俺。元気にしてる?

ちゃんと大人になってる? 変なヒゲとか生えてない?

今の俺は、まだ子どもだけど……でも、ちょっとだけ、未来が怖い。


でもね、君が笑ってるなら、それで全部チャラだ。

辛いことがあったなら、それも“思い出”に変わってるといいな。

夢とか、忘れてない? 大事な人、ちゃんと大切にしてる?


……もし、忘れてるなら、思い出してほしい。

君は、ここにいた。ちゃんと願ってた。

未来の自分が幸せであるようにって、ちゃんと祈ってたよ。


じゃあ、また10年後に。

お前の過去より」


録音終了と同時に、タイムが静かに口を開く。


「記録完了。10年後のこの日、この時刻に再生を予約しました」


「……10年って、長いな」


「あなたにとっては、です。私にとっては“数行の待機命令”にすぎません」


タイムは、そう言って微笑むような表情を浮かべた。

本当に笑っていたかはわからない。けれど、確かに“やさしい間”があった。


***


数日後。リクはタイムを充電ステーションに預けるとき、ふと尋ねた。


「なあ、10年後って、俺はちゃんとこれを見に来ると思う?」


タイムは答える。


「未来は不確定です。けれど、あなたが“来たい”と思っている記録は、私がすでに保存しています。

その気持ちは、時間を越えて残る価値があります」


リクは目を細め、空を見上げた。

10年後の空も、こんなふうに見えるだろうか。

それとも、全然違う景色になっているだろうか。


でも、それでもいい。

どんな未来になっていても、この約束だけは変わらない。


「よし。じゃあ、10年後の俺に、もう一つプレゼントしとこうかな」


そう言って、リクはこっそりと“おまけのメッセージ”を追加した。

それが何だったのか、タイムも秘密にしている。


約束とは、すぐに叶わなくてもいいものもある。

むしろ、長く待つことこそが“信じる”ということかもしれない。


そして、未来へ宛てたそのポストカードは、今も静かにタイムのメモリの奥に眠っている。


10年後――リクがそれを取りに戻ってくるその日まで。


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