第4話:命の果てに咲くもの。

「………どう、やら……成功………した、よう……だな……。」


微かに笑みを浮かべながら、澪月はがくりと膝をついた。

霊力の消耗は限界に達し、もはや指一本動かすのも億劫だ。

実際、その身はすでに限界を超えていた。

湖面に映る自らの姿――その髪の先から、光の粒が零れ落ちていくのが見える。

命が、静かにほどけていく証。


「……この世とも、お別れ、か……」


死を悟りながらも、彼女の瞳にはどこか穏やかな微笑が浮かんでいた。

静かに、力尽きた身体を横たえる。

視界に映るのは、深く、澄んだ夜空と、淡く照らす弦月の光。


瞼を閉じれば浮かんでくる。

――ここまで共に戦ってきた、大切な仲間たちの姿。


いつも太陽のように明るく、自分を支えてくれた、己の片割れ。

気高くあれど腕っぷしが強く、誰よりも正義感に満ちた親友の、照れ隠しのような笑顔。

軽薄そうでお調子者なのに、人の心の機微には不思議と敏くて、どんな時も前を向いていた護衛の屈託のない笑顔。

その知識と才能で非力な自分たちを幾度も助けてくれた彼の、はにかんだような微笑。

人畜無害そうな顔をしながら、誰よりも冷静に、時に非情な決断で仲間を守ってくれた、あの力強い眼差し。


そして――


不器用で、無愛想で、言葉足らずで……

それでも、どんな時も傍にいてくれて、誰よりも自分を見てくれていた、

あの人の、たった一度だけ見せてくれた、貴重な微笑み。


ゆっくりと瞼を開けると、ひとすじの温もりが頬を伝って落ちていくのを感じた。

それは、幼い頃から感情を抑えてきた澪月には、久しくなかったもの――涙だった。


(………ああ、私は……泣いているのか……)


たった一筋。

けれど、その雫に込められたものの重さは、自分でも分かる。


歓び。

安堵。

悔い。

無念。


……そして、溢れんばかりの――愛しさ。


「………最期まで………言うことは、叶わなかった…な……」


胸に滲むのは、たしかに、愛だった。

もし、この命の先に“来世”があるのなら。


「どうか……もう一度、だけ……」



――貴方に、逢いたい。

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