第2話 「たとえば、君が僕に告白したら」

放課後の教室。誰もいないその空間で、澪は窓際に座っていた。

逆光に照らされたその輪郭は、まるで夢の中にだけ存在する人のように見えた。


「さっきは、ありがとう」

僕は彼女の隣に立ちながら、言った。


「なんで?」


「似てるって、言ってくれたから。……嬉しかったんだ」


彼女は、手に持っていた本のページを閉じた。

そして、何の前触れもなくこう言った。


「たとえば、私が君に告白したら──どうする?」


一瞬、時が止まった気がした。


 


「……それも、実験のひとつにしていい?」


そう答えようとして、言葉が喉に詰まった。

なぜか、口が動かなかった。


今までだったら、そう言えていたはずだ。

「ありがとう、でもごめん」とか、「試しに付き合ってみようか」とか。

合理的に。淡々と。いつも通りに。


でも今は、そうじゃなかった。


もし、澪が僕に本当に告白したら──

それを“実験”で受け取ることが、なぜかとても、もったいないような気がした。


「……わからない」


僕はようやくのことで、そう答えた。


「わからない、か。いいね、それ」


「いいの?」


「うん。なんか、“ちゃんと考えた”って感じがするから」


澪はふわりと笑った。

たぶん、僕はその笑顔を見て、心がちょっと動いた。


それが“好き”なのか、“興味”なのか、ただの共鳴なのかは、まだ分からない。

でも、たしかに今の僕には、それが“違う”ものに思えた。


彼女となら、もう少しだけ、“わからない”ままでいてもいい気がした。

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