第48話 肩を並べる者
「ブレーブが全く歯が立たないだと」
俺は驚きを隠せない。
俺がバルガン対策に招へいしたパーティーは2組。
『勝てないまでもそれぞれが猛者だ、力を削ぐことは出来るだろう』
そう思っていた。
だが、その1組ブレーブがなすすべもなく破れた。
力を削ぎ上手くすればダンジョンから出て来る前で片が付く。
それでも出てくる様な事があれば、冒険者を集め国から騎士の大隊を派遣して貰い、数の理で戦うしかない。
だが、ブレーブを持ってしても、バルガンは無傷だった。
無傷はあり得ない。
このまま、第二パーティーが成すすべも無く負ければもう数の利で戦うしかない。
そして、それで負けたら……考えたくもない。
◆◆◆
「やはり、偽物の勇者等、あてにはなりませんね!」
「その通りだわ」
「さっさとかたずけて、名誉とお金を手にするとしましょう」
僕のパーティーの名前は「ラック」という。
転移石を二つ使いダンジョンの中層に来た。
リーダの僕の名前はアラン、フラン国の侯爵の息子に生まれた。
ジョブを貰う儀式で「探求家」という研究職のジョブを貰った。
ここまでは全てが順調だった。
だが、僕は此処から転落の人生を歩む。
身分もあり、優れたジョブも持っているのに、スキルが何も無かった。
それに比べて、弟には優れたジョブとスキルがあった。
1年位は様子を見て貰えたが、その後、無能として無一文で侯爵家を追い出されるはめとなる。
その後冒険者になるもスキルも無い為、貧窮しどん底の人生を僕は歩んだ。
殆どその日暮らしの毎日。
ある時、女を知らなかった僕は虚しさと寂しさから、僅かなお金を貯めて、その日娼婦を買った。
ゴブリンすら狩れない僕が僅かなお金を貯めながらやっと買った娼婦それがロザリーだった。
彼女は貧乏村の出身でお金が無い為に娼館に売られてきた女だった。
そこから、僕の運命の歯車は再び動き出した。
ロザリーと交わり童貞を捨てた僕は今迄渇望しても、手に入らなかったスキルがとうとう手に入った。
手に入れたスキルは「スキル創造」このスキルは自分が望むスキルを作り出すという強力なスキルだった。
このスキルを手に入れた僕は次々と依頼をこなし、今ではS級にまで登ってきた。
その時にお金を貯め、娼婦だったロザリーを身請けした。
僕は思う……
「僕にとっての女神や聖女はロザリーだった」
二人の出会いは「ラッキー」だった。
僕達はそう考えて、パーティー名は「ラック」と決めた。
『娼婦が聖女を越える、落ちこぼれが勇者を越える』その日を目標に今日も僕達は戦う。
「あれがバルガンですか?」
「思った以上に禍々しいわね……それでどうするの?」
「やるからには正々堂々正面からいく」
「勇者、聖女を目指す、私達が奇襲攻撃を掛ける訳にはいかないわね!」
「バルガン、僕が相手だ!」
「ほう、俺に正面から戦いを挑むとは流石だ! 名乗りをあげよ!」
「落ちこぼれのアラン」
「元娼婦のロザリー」
「俺の聞き違いか? 落ちこぼれと元娼婦と聞こえたが?」
「間違いではない……そのままだ、だが、お前を倒し、落ちこぼれや元娼婦でも勇者や聖女を越える事が出来る事を証明する!」
「ふわっはははは! 面白い……実に面白い、その意地で掛って来るが良い」
「行くぞ!」
俺は「スキル創造」で沢山のスキルを身に着けている。
【打撃耐性】【斬撃耐性】【物理無効】【剣術】【受け流し】【物理攻撃力上昇】【炎魔術】他にも全部で300種類のスキルを身に着けている。
但し、ポケットがあり、全部一緒には使えない。
特に、その中ででも特筆するのが【物理無効】だ、この世界には【物理耐性】はあっても【物理無効】は無い。
これこそが俺の創造した最強のオリジナルスキルだ。
これがあるからこそ、僕はこの依頼を受けた。
「来い」
剛腕のバルガンが襲い掛かってくる。
幾多の英雄、勇者がこの一撃で腕が千切れ、あるいはそのまま死んでいった。
そう聞いたが……僕には他の者には唯一無二のスキルがあった。
【物理耐性】でも耐えきれない、バルガンの一撃を無効にするスキルだ。
どうだ……受けれたぞ。
「ほう、俺の一撃を正面から受け止めた人間は数人しかおらぬ、今度はお前から仕掛けて来い」
「ならばこれを受けてみろ【必中】だ」
僕は知っていた。
大昔にバルガンに傷を負わせた人間が居た事を。
それは勇者ではなく狩人だった。
その狩人が使ったスキルが正に【必中】。
そして、その時には銀の弾丸を神官(司祭クラス)が清めた物を使った。
嘘だろう……
弾丸は手で弾かれバルモンには届かない。
そうか、あの時の狩人は「不意打ち」をした。
真正面からであれば、バルガン程の者であれば弾丸等躱す事も受ける事も出来て当たり前だ。
「わははは、愉快だ、お前は随分と詳しいのだな、まさか同じ手を使って来るとは思わなかったぞ。次は聖剣か? それとも聖剣を打ったハンマーか?」
「僕は勇者で無いから、それは持っていない! 持っているのはミスリルのソードだけだ」
「ならば終わりか?」
「いや……まだだ……光、聖、輝、そのすべてをこの剣に」
僕は完璧な【魔術操作】を使い、聖魔法と光魔法を融合して【聖光魔法】を作り出した。
この世界にはこの魔法はまだ無い。
その魔法を剣に纏わせて斬りつける、これは流石のバルガンも受けた事は無い筈だ
バルガンは「面白いな、受けてやろう、恐らくそれがお前の最高の技なのだろう」
バルガンはそう言うと両手を広げて構えた。
その余裕が命とりだ。
「これが、ただの落ちこぼれが勇者を越える為に身に着けた、光の翼改だ!」
勇者の中の勇者、天城の技を魔法を使い人工的に模造した物……どうだ!
ズガガガガガガガガガン、大地が震える大きな音が鳴り響いた。
だが、
「凄まじい威力だったな、同じ技を昔、天城という勇者が使ったがそれ以上だ、その剣が聖剣であったなら俺でも怪我くらいはしたかも知れぬな!」
嘘だろう……天城が死んだのは、まさかバルガンのせいだったのか.......
「ハァハァ……無傷だと?」
「種族の差だ、もし俺が人間でお前が魔族であったなら結果は逆であったろう」
そこには無傷のバルガンが立っていた。
それに対し僕は腕が折れている。
バルガンは僕の腕を掴んだ【物理無効】も直接引き千切れば意味は無い。
僕の腕は簡単に千切られた
【痛覚軽減】が無ければ痛みで動けなかったかも知れない。
「うがぁぁぁぁーー」
「終わりだな!」
「まだ終わらないわ、アランまだ最後の手が残っているわ」
「はぁはぁ、それで良いのかロザリー!」
「ええっ」
「バルガン、ハァハァ、僕の女はまだ、終わりにしてくれないらしい、悪いがもう少し付き合って貰おう、行くぞロザリー」
「一緒に行きましょう」
僕達は手をとり、バルガンに向っていく。
本来は魔法。だがスキル創造により、究極の魔法と同じ効果を無理やり生み出す。
その力は「自己犠牲」聖女や聖人が自分の命と引き換えに放つ究極の魔法の力
「これが最後だわ.」
「これが最後だ」
ゴワワワワワワワワッ.ボガアアアアアアアアアン
閃光が起り大爆発が起きた。
だが、その中央にバルガンは立っていた。
「これでも無傷なのか……」
「此処までしても……届かないの」
もう僕達は虫の息だ、もう長くは無いだろう。
バルガンはポツリと語り始める。
「お前らは勇者や聖女は超えていない……だが肩は間違いなく並べた」
「そうか……」
「やった……」
俺達は勇者に……届いたんだ……そうか……これで思い残すことは.....ない。
「ロザリー......」
「アラン.......」
僕は最後の力でロザリーの傍まで這って行き手を握った。
◆◆◆
二人の死体を鎖で縛り上げ近くの岩に吊るした。
良く、俺は見せしめにこれを行っていると思われるが実は違う。
俺が殺し、鎖で吊るす者は「強敵」だった者だけだ。
これは俺なりの強き者への敬意なのだ。
◆◆◆
王国の墓地には功績のあった者のみが祭られる墓域がある。
その片隅にはアランとロザリーの墓が建てられた......
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