星詠みの末裔と忘れられた観測所

anghel@あんころもち

序章:落ちこぼれの初歩

 エルフリーデは、深いため息とともに魔導書の埃を払った。


 彼女の指先からこぼれ落ちるはずの魔力の輝きは、今日もまた、蛍の光ほどにも満たない。


 ここは大陸有数の魔法学園「アークトゥルス」。



 高名な魔法使いを数多く輩出してきたこの学び舎で、エルフリーデは「落ちこぼれ」として知られていた。


 彼女の家系は、代々強力な元素魔法の使い手を輩出してきた「ヴァイスハイト家」。


 しかし、エルフリーデに受け継がれた魔力はあまりに微弱で、魔法の「初歩」であるはずの浮遊術すら満足にこなせない。


 周囲の期待は失望へと変わり、やがては憐憫の視線すら向けられる始末だった。


「また古代語の文献ですか、エルフリーデ様。そんなものより、基礎魔法の練習をなさっては?」


 図書室の司書であるノーム族の老人が、心配そうに声をかけてきた。エルフリーデは曖昧に微笑んで見せる。


 彼女にとって、魔力の才能がない代わりに、唯一情熱を傾けられるのが、忘れ去られた古代文明や失われた魔法の探求だったのだ。


 その日も、彼女は禁書庫の片隅で、埃を被った一冊の古文書を見つけた。


 それは羊皮紙を束ねた簡素なもので、表紙には掠れた古代ルーン文字で「星詠みの観測日誌」と記されていた。

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