第48話 解錠師、新たな天災と遭遇する。


 神速の一撃──目にも止まらない速さで、バリオスは殺意の塊を振るうが、即座に前へ出たエリスがバリオスの一撃を聖剣で受け止めた。


 いつの間に俺の前に?

 いや、それよりもアルシェは? 形状変化させた聖剣の上に寝かせていたんじゃ……。

 

 そう思い後ろを振り向くと、アルシェは想像通り地面に転がされていた。せめてペロコやアイザに預けてあげて!


 

「テメッ、エリスッ!! この後に及ンでまだソイツを護るつもりかよ!? テメェそれでも天災セレスターか!!」

 

「うっさいですわね! わたくしは天災セレスターである前に一人の女なんですの! 好きな殿方を護るために力を振るうことの何がおかしいんですのッ!?」



 収縮させた光の聖剣と稲妻をほとばしらせるハルバードが鍔迫り合い、周囲にまばゆい魔力波動を放つ。


 互いの切先がぶつかりあう音がダンジョン内に轟くが、力押しでは敵わないと判断したのか、バリオスは数メートル離れている地点まで後退する。


 

「ちょっとバリオス先輩! 大丈夫っスか!?」

 

「俺ァなんともねェよ。ただ話は変わった。今ここでロックを──エグゾードを殺す」

 

「ええっ!?」


 

 バリオスはそう言うと、ふたたびハルバードを構える。

 モアは困惑しながらも、収納空間アイテムボックスから大剣を取り出し剣先をこちらに向ける。


 バリオスのヤツ、話聞く気ゼロじゃん。

 これじゃあどうやっても釈明のしようがないんだけど。

 

 ああ、クソ。なんで俺に向かってくるヤツは全員、人の話を聞こうとしないんだ……!


 

「ちょっ……ちょっちょっ、ちょっと待ってください! さっきから何をしてるんですか!? ロックさんたちが何をしたって言うんですか!!」

 


 こうなった以上は戦うしかないか──と、いつでも攻撃に対応できるよう構えると、背負われていたシトラスが俺の背中から降り、手を広げながら仲裁に入る。


 

「……その様子だと何も知らねェンだろ。なら引っ込ンでろ。ロックを殺したあとで教えてやる」

 

「そう言われて引き下がれるワケないじゃないですか!! ロックさんはわたしを、わたし達を助けるためにここまで来てくれたんです! それなのに殺すなんて……!」

 


 シトラスは震える手で剣を取り、バリオス相手に構えをとった。


 おいおい、これ以上は収集がつかないって……!


 

「バリオスさん! あなたがいくら天災セレスターだからって何してもいいワケじゃありません! ロックさんを『エグゾードだ!』なんて根拠もないクセに言って! ロックさんが、あの悪逆魔王であるエグゾードなワケないじゃないですか!!」


「「「「「……………………」」」」」


 

 事情を知らないシトラスが、涙を流しながら必死な声をあげる。

 

 しかし事情を知ってる俺たちは、もはやこれ以上何をどうすればいいのかわからず互いに武器を構えたまま硬直するばかりだった。


 あ〜もうめちゃくちゃだよ……。どうすんのこの空気?



 

「──そうだな。封絶ノ王エグゾードの魔力は感じない」

 

「ああ。今の彼は、正真正銘【解錠師】のロックだぜ」




 

 情報が錯綜し、事態が混迷を極める中。

 バリオスたちの後ろから、二人組の男女がこちらに近づいてきた。


 誰も知らないような場所に近付いてくる人は限られる。


 バリオスやモアには、まだ自分から「エグゾードである」ことを伝えていないのにバレていた……。


 その事実を考えると、新たな乱入者がいったい何者なのか、容易に想像ができた。


 

「エリス。もしかしてあの二人も……?」

 

「……ええ。わたくしやバリオスと同じく、天災セレスターのメンバーですわ。名前は──」


 

「──クリスタル!? それに、グレイのおっさん!?」

 


 エリスが告げるよりも先に、バリオスが驚きの声をあげた。


 クリスタルと呼ばれた白銀長髪のエルフは俺の方に向き直ると、ゆっくりと頭を下げる。


 もう一人の「グレイのおっさん」と呼ばれた人は、俺が王都にいたときに何度か見たことがあるハンマーを担いでいる冒険者だ。


 まさかこの人も天災セレスターだったとは。


 

「……お主、まさか【氷結世界コンゲラティオ】か?」


 

 一人でに驚いていると、俺の隣でバリオスたちを警戒していたアイザがクリスタルと呼ばれたエルフの女性にそう尋ねた。


 

「そう言う君は【終焉ヲ齎ス獄炎竜アイザ・ジ・エンド】か? まさかそんな可愛らしい姿になれるとは思いもしなかったよ」


 

 天災セレスター厄災ディザスター

 

 犬猿の仲とも言えるはずの間柄なのに、見つめ合う二人からはそのような雰囲気の悪さは感じられなかった。


 

「……バリオス。武器を納めろ。これ以上私たちが争う必要はない」

 

「はァッ!? テメェまでなに言ってやがる!! わかってンだろ、あいつが『エグゾード』だってことを!」

 

「わかってんよ、それぐらい。だが。それくらいお前だってわかってんだろ? バリオス」


 

 巨大なハンマーを担ぐグレイに諭され、バリオスは仕方なく武器を下ろす。


 それを認めると、クリスタルはふたたび俺に頭を下げながら、


 

「──すこし君と話がしたいんだが、いいかな?」


 

 柔和な声をあげて、そんな提案をした。

 

 これ以上ムダな争いをしたくなかったので、俺はクリスタルの案を呑むことにした。

 

 

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