第30話 解錠師、「教え子」に出会う。


 

 その翌日。

 起きてベッドから降りると、やたらとやわらかい感触がする。

 

 下を向くと、そこには仰向けになって「はぁはぁ」と喘いでいるエリスがいた。


 そんなエリスを見た俺は【施錠ロック】で拘束し、一階に降りた。

 

「あぁん♡ お待ちくださいましロック様♡」という声が上から聞こえてくるけど、聞こえなかったことにしよう。


 

 ☆★☆★ ☆★☆★ ☆★☆★ ☆★☆★


 

 俺の朝は基本的に早い。

 

 変態のエリスはともかく、アイザもペロコもまだ寝ている時間帯に外へ出て軽いランニングと、いつもの「魔力コントロール」の特訓をしている。


 体を温めてから行なったほうが、魔力の巡りがよくなる……そんな気がしていた。


 走り続けていくうちに俺は家から離れ、街の玄関口付近にまでやってきた。

 

 ここに来た理由はとくにない。走る道を決めてから走るというワケでもないので、基本的に休憩で止まった地点が俺の「魔力コントロール」特訓場所だ。

 

 俺は「ふぅ」と一息ついてから、お腹に手を当てて【解錠アンロック】と口にする。


 いつも通り、体の内側から溢れだす膨大な魔力。

 

「──施錠ロック解錠アンロック施錠ロック解錠アンロック……」

 

 その魔力を手のひらで押さえつけ、緩める。

 そしてまた押さえつけ、緩める。

 この行為を何度も何度も繰り返してゆく。


 じんわりとした熱が全身に広がり、それに慣れてきたら、あとは完全に【施錠ロック】で閉じて終了。


 これが俺の魔力コントロールの特訓方法だった。


「ふぅ……。まぁこんなもんかな」

 

 じっとりと汗が滲んでくる。

 俺は水魔法を発動して、それをゴクゴクと飲み干した。

 

 ほてった体に冷たい水が染み渡る。

 ふたたび「ふぅ」と息を吐いて、日が昇りかけている朝日を眺めながら俺にかけられた封印について考えを巡らせた。


「……解錠師としての特殊能力ユニークスキル全属性オムニエレメントか。ホント俺って何者なんだろうな」

 

 キー師匠からは何も聞かされていなかった。

 少なくとも全属性オムニエレメントについては、一言も聞いていない。

 

 頭にかけられてる封印のせいかもしれないけど、こちらについては今のところ頭打ち状態だ。


 この二ヶ月のあいだ、アイザに何度か「解錠の魔法」をかけてもらっていたのだが、10回目に差し掛かったあたりで解錠の魔法が効かなくなってしまった。

 

 アイザいわく「さらに強力な封印が張られている」とのことで、こうなると既存の魔法ではどうにもならないらしい。


「……やっぱりもう一度、キー師匠に会うしかないんだろうか」


 キー師匠は、10年前に俺をアルマ王国に置いていったきり、一度も会っていない。

 

 今ごろあの人はなにをしているのだろうか。

 そんなことをぼんやりと考えていると、街の玄関口となる通路から、二人組の女の子が入ってきた。


「こ、ここが先生の言ってた街なのかな……?」

 

「た、たぶんそうだと思う……」

 

 おどおど、キョロキョロといった擬音が聞こえてきそうなくらい挙動不審の二人組は、お互いに腕を抱き合って歩いてくる。



 片方はオレンジ色の髪の毛をしており、腰にはショートソードをいている。


 もう片方は銀色の髪の毛をしており、その上には、今どき被るか? ってくらいコテコテな魔法帽と、片手には小さな杖が握られていた。


 絵に描いたような初級冒険者を前に、俺は声をかけずにはいられず、二人の元に歩み寄って声をかけ──ようとした瞬間に杖を向けられてしまった。

 いやあの、怪しいものじゃないんですけど……。


「ちょっとアルシェ! なに急に杖向けてるの!?」

 

「い、いやだって、『急に声をかけてきた人がいたら警戒しなさい』って先生言ってたし……」


 オレンジ髪の少女が、銀髪少女を止めようとする。

 アルシェと呼ばれた銀髪少女は、それでも俺に杖を向けるのをやめなかった。

 

 その先生とやらが言ったことはある意味で正しいとは言えるけど……おそらくそれは、街の外や人通りの少ない場所での話だと思う。


 とは言っても、怖がらせてしまったのは事実だろう。俺は両手をあげて、敵対する気はないことを伝えた。


「驚かせてしまってすまない。俺はこの街で冒険者をしているものだ。名前はロック。キミたちの格好からして、まだ冒険者になりたての子かと思って声をかけたんだ。冒険者ギルドの場所はわかる?」


 そう言うと、ようやく銀髪少女は杖を下ろし、ふるふると頭を横に振った。一応警戒心を解くことかできたかな?


「そっか。ならギルドまで案内するよ。まぁこの時間帯だからまだ空いてないとは思うけど」

 

「……わかりました。お願いします、ロックさん」


 口を開いたのは、オレンジ髪の女の子だった。


「私はシトラス。そしてこっちの魔法使いっぽい子がアルシェ。二人ともまだ冒険者になりたて……というか、まだなってすらないんです」

 

「ぼ、冒険者になりたいって話を先生にしたら、この街にある冒険者ギルドをすすめられたので、この街に来ました……」

 

 冒険者になりたて? それに「この街のギルドをすすめられた」? なんとも不思議な話だな。

 

 冒険者ギルドなんて、人魔対戦のときと違って、どの国や街にもあるだろうに。

 

 ……いや、もしかするとその「先生」が、ここのギルドマスターと仲が良くて話を通しているとか?


 色々と疑問に思い、俺はその「先生」とやらが誰なのかを尋ねる。

 

 そして、その名前を聞いた瞬間、俺の中の時間が一瞬だけ止まった。








 







 

「キー先生です。【解錠師】っていう不思議なスキルを持った、すごい人なんですよ!!」








 

 


 



 

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