第26話 追放者ガレス、墜落と覚醒。
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「──クソ、クソ、クソ……!! なんだよ、なんで俺がこんな目にあわなきゃならねーんだ……!!」
ロックが俺を置いていって、たぶん1時間は経過した。
アイツが言うには、この謎の力はアイツ自身の力じゃねーと解除されないらしいが、そんなのありえねぇ。
アイツにあんな力があるワケがねーんだ。
つーかそもそもその力が解錠師の力だとして、どうして俺たちとパーティを組んでたときに使わなかったんだ?
そんな力が使えるってわかっていれば、コキ使ってやってたのによォ……!!
いや待て、落ち着け。
今そんなことを言ったところでどうしようもない。
とにかくここを出ることを考えなくては!
「おぉぉぉ〜〜〜い!! 誰か、誰かいねぇのか!? 俺だ、Aランク冒険者でいずれ王選冒険者になるガレス様だ! 誰でもいい! 俺をここから出してくれ! もしくはロックってヤツをここに連れてきてくれ!」
大声で叫ぶ。
だが、王都から大きく離れたこんな草原地帯では、冒険者どころかモンスターすら通らねぇ。
おいおい、ウソだろ? この俺様がこんな
心のなかに巣食う黒い感情が、次第に大きくなっていく。
イヤだ、イヤだイヤだ!!
死にたくない、俺はこんなところで死ぬ訳にはいかねーんだ……!
「おい! おぉぉい! 誰かいねぇのか!? 誰か!! 助けてくれーッ!!」
腹の底から助けを呼んだ。
すると、ロックに吹き飛ばされていた俺のパーティメンバー達が集まってきた。
「なんか、ここらへんからガレスの声が聞こえた気が……」
「確かに、声が聞こえたような……」
「気のせいじゃない? だってどこにも見当たらないじゃない」
「そうだよ、どこにもいねーじゃねーか」
「ッ!!?」
どこにもいない? ハァ?
コイツら目ついてないのか?
それとも信じられないくらいのバカなのか?
「おいッ!! 俺はここにいるだろうが!! なにふざけたこと抜かしてやがるッ!!」
「うわっ!? この声……ガレス!?」
「え? でもどこから……」
俺の呼ぶ声には反応する。
だがコイツらは、一向に俺を見つけようとはしなかった。
ふざけやがって……! 俺がいなけりゃ何もできないザコのくせに、ここに来てこの俺様を「無視」するだと……!?
「テメェら、ふざけてんのか!? いい加減にしろよザコのクセによォ!! 俺がいなけりゃお前らはAランクパーティにもなれなかったんだぞ!? そこらへんわかってんのかよ!? おいッ!!」
「「「「……」」」」
俺がザコどもに対して、これまでずっと思っていた不満をぶちまける。
真上に俺がいるっていうのにとぼけたマネをしやがるからだ。
これくらい言ったって許されるだろ。事実なんだしよ。
そう思っていると、仲間のうちの一人(名前は覚えてない)がふざけたことを抜かし出した。
「……どこかにガレスがいるのかもしれないけどさ。もう置いていかねーか? ぐちぐちうるせーし、乱暴だし粗雑だしよ」
「……は?」
このクソザコゴミ冒険者、いまなんて言った?
この俺を「置いていく」つったのか? Aランク冒険者であり、いずれ王選冒険者になるこの俺を?
「さんせ〜い。っていうかアイツいつも尻とか胸とか触ってきてキモかったのよね〜」
「ああ、それ言ってたなw でもアイツとヤッたんじゃなかったっけ?」
「ほぼ無理やりよ!! わたしはイヤだって言ったのにアイツが……!」
「はァァァァ!!?」
テメェこのクソアバズレ!!
テメェから股開いてきたクセしてなに抜かしてやがる!?
「つーかもうこれ以上ガレスに付き合う必要ないよな。アイツがロックを追放したあたりからおかしくなったワケだし」
「そうだよ。ロックを追放してから俺たちの人生めちゃくちゃだ!」
「ロックも可哀想だよな。ガレスにあんなにバカにされて」
「そうだなぁ」
「こ、コイツら……!!」
一緒になってロックをバカにしてたクセに……!!
クソが、殺してやる!
コイツらまとめてぶっ殺してやる!!
そう思ったのだが、コイツらは言いたい放題言ったあと、俺に背を向けて歩いていく。
「おい、本当に俺をこのままにしておくつもりかよ!? おい、お前ら!!」
「どこにいるかわからないけど、じゃあなガレス〜w」
「王都に戻ったら、ガレスが逃走しましたって伝えといてやるよw」
「いや、戻らないだろw 戻ったら俺らまで殺されるぞ?ww」
「確かに〜ww」
そう言ってアイツらは、俺を残してどこかに行きやがった。
俺様のおかげでAランクパーティにまでなっておいて、こうして俺がピンチに陥ったときは捨てていくだと……!?
クズだ、アイツらは救いようのないゴミクズだ!!
「クソ、クソクソクソクソクソ……!! アイツらぜったいに殺す!! 皆殺しにしてやるッ……!!」
ギリギリと歯軋りをする俺。
しかしどれだけ声をあげても、俺の声は届かなかった。
なんで俺が、俺だけがこんな目に遭わなきゃならないんだ。次第に涙が溢れてくる。
そんな俺に対し、声をかけてくる女が一人いた。
「あらあら、泣いているのですか? ガレスさん」
「! その声……お前、クーラか!?」
声が聞こえる方を見下ろすと、そこには俺を見上げるクーラの姿があった。
コイツ、ロックに攻撃されるときにしれっといなくなってやがったから逃げたのかと思ったけど、どうやら違ったらしい。
「そうか、お前だけは俺を置いていかないでくれたんだな!! よ〜し、よくやったぞクーラ!! 流石は俺の将来の嫁だ!!」
「……? 将来? 嫁?」
こてんと首を傾げるクーラ。
ハッ、とぼけやがって。俺のことを愛しているからこそ、こうして残ってくれたんだろう?
まったく恥ずかしがり屋め。いずれ顔にかかってる黒い布をとって、お前のイキがる顔を見てやるからな。
って、今はそんなことよりもここから出ることを優先すべきだ。
「クーラ、お前に命令だ。俺をここから出せ。それかロックを呼んでこい。そしたら褒美として俺と結婚──」
「あの〜、すみません。先ほどから何を言ってるのかわからないんですけど〜」
チッ、察しの悪いヤツだな……。お前がここに残ったのは、俺を助けるためだろう?
そう思っていたのだが、クーラのヤツはとんでもないことを言い出した。
「たいへん申し訳ありませんが、本日を持ちまして【猛獣の爪】を抜けさせていただきます。短い間でしたがお世話になりました」
「は???」
いやいやいや待て待て待て!!
このクソ女、突然なにを言い出しやがる!?
「もしかして気付いてなかったんですか? 私は別に、あなたのパーティに入ることが目的ではありませんよ?」
「はァ!? じゃあ何が目的だったんだよ!!」
「そんなの、決まっているではありませんか」
「──ロック様ですよ。解錠師のロック様。ようやく出会うことが出来ました、ありがとうございますガレスさん。あなたのおかげです♪」
黒い布に隠れていてよく見えないが、おそらく満面の笑みを浮かべているんだろう。
なんだよ、コイツもロックかよ!
クソ、なんでどいつもこいつもロックのことばかりなんだよ……!!
「どうしてロック様ばかり、って顔をしてそうですね。見えなくてもなんとなく雰囲気でわかりますよ。あの方は普通の解錠師とは違うんです。まぁ解錠師自体が普通ではないんですが……この話はあなたにとってどうでもよいでしょう」
くすくすと、俺をバカにするように笑って、クーラは背を向けて歩き出した。
「では、私はこれで。あなたがロック様を追放したと聞いたときはどうしようかと思いましたが、すぐに出会えたので良かったです。もう二度と会うことはないでしょうが、とりあえずお礼だけは言っておきますね♪」
「………………………………………………」
それから俺は広い草原の上で一人たたずみ、ロックに妙な力を使われてから2時間後、ようやく解放された。
どしゃりと音を立てて地面に落ちる俺。
誰もいなくなった草原の中心で、俺は怒りや憎しみを声にして叫ぶ。
「──あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!! ちくしょう!! ちくしょうちくしょう!! クソクソクソクソクソクソクソクソクソがァァァァァァァァァァァァ!!!!」
地面を何度も殴った。
なんでだ? なんでこの俺が、Aランクパーティの最強冒険者であるこの俺様がこんな目に遭うんだ!?
なんでロックみたいな役立たずがあんなにも持ち上げられるんだ!? おかしいだろ!!
「……ロック、テメェだけは、テメェだけはぜったいに許さねぇ……!! 必ずぶち殺してやる!! いや、それだけじゃねぇ……!!」
俺を裏切った元パーティメンバーども、そして俺の女になる筈だったクーラ、俺を処刑しようとしたアルマ国王もろとも!
全員まとめてこの手でぶち殺してやる……!!
怒りや憎しみに暮れる中で、俺は一人そう決意した。
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【──フフ、フフフフフフ。よい、よいぞ、あの男のドス黒い感情】
怒りや憎しみの感情を吐き出し、悲痛の叫びをあげる男の背後に、それはいた。
世界を滅ぼす力を持つ存在、
散る間際の勇者の手によって封印された、10体いるうちの5体。
その名は【
誰しもが持つ黒い感情を吸収し、己の魔力に変換することができる力を持つ、深淵の覇者。
かつて『世界最強の魔王』として恐れられていた
【あの男の感情を利用すれば、私は再び、この世界に『完全顕現』することができる……】
ユラユラと、実体を持たないダークネスは、ガレスの黒い感情に反応して揺れていた。
自身の魔力とガレスの感情が呼応している。相性がよいのだろう。
ダークネスはそれを認めると、ほくそ笑みながらガレスの背後に近づいてゆく。
そして──、
【──こんばんは。キミのドス黒い『負の感情』、とても素晴らしいよ。ぜひ私の
「は……? なんだ、何の声だ──ぐぅッ!?」
黒い瘴気が、ガレスの全身を、そして彼自身の黒い感情をまるごと飲み込んでいき、
「な、なんだこれ……! すげぇ、すげぇぞ! 力がみなぎってくる……!!」
そして、完全に融合した結果、ガレスはダークネスの持つ力を完全に使いこなせるようになっていた。
裏でダークネスが操っているのだから当然ではあるが、愚かなガレスは、この力こそ自分の『本来の力である』と錯覚していた。
「……へへ、見てろよロック。かならずテメェを見つけ出して、俺がこの手でテメェをぶち殺してやるよ!! フハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
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