第16話 解錠師と獄炎竜、『魔獣神王』と戦う。②



 

【フハハ、そう言いながらも無事ではないか! 何をしたのじゃ?】


「別に。だよ」


 

 アイザがブレスを吐き出す前に、まず土属性の防御魔法『アイアンスキン』を発動。

 その上から水の防御膜『アクアガード』を展開し、さらに魔力による無数の魔法盾『マジックシールド』を展開した。


 ここまでしてようやく、ブレスによる余波を完全に受け流すことができた。たった一発のブレスでこれだ。

 強くなったとは言え、やはり厄災ディザスタークラスの一撃は重い。


【どんな防御魔法でも貫通するほどのブレスだと言うのに……まったく、なんてヤツじゃ】


「そのセリフ、そっくりそのままお前に返すよ!」


 俺はそこで言葉を区切り、こちらを見上げる魔獣神王ジゴクノバンケンに意識を向ける。


 魔獣神王は、三つの首を此方に向けてワンワンと犬らしく吠えていた。それだけに目を向ければ可愛いんだけど……。

 

 両端の口が大きく開かれ、山で見た黒と赤のが口から放出され始めてからは意識が変わる。


「アイザ。アイツから何か漏れ出てるけど、何をしようとしているんだ?」


 俺の質問に対し、アイザはけろりとした様子で、


【あれは『毒』じゃな。ヤツは見ての通りケルベロスでのう。地獄の門番として、その身に宿す毒であらゆる相手を屠り去ってきておる。言っておくが、あの毒は流石の我でも吸えば瀕死になるレベルじゃ】


 と答えた。

 なるほど、ロクでもない力を持っているとは思っていたけど……


「想像をはるかに超える厄介さだな!」


 左と右の首をしならせて勢いをつけると、魔獣神王の喉元が大きく膨張させ、炎のように揺れる毒を吐き出した。

 

 厄災ディザスターが放つ毒だ。体が痺れるとか気分が悪くなるとか、その程度の効果なワケがない。

 恐らく、赤と黒の「色の違い」で受ける毒効果は変わるんだろうけど──


「何にせよ、ぜったいに毒を食らうワケにはいかない! 【施錠ロック】!!」


 右手を伸ばし、空間を指定し、その場にある空気を施錠ロック──要するに「圧縮」した。


WAUワウッ!?】


【ほう? まさか解錠師のスキルにそのような使い方があるとは!】


 急速に空気が圧縮されたことで、俺とアイザの目の前に『真空の壁』が作り出される。

 真空状態とは、簡単に言えば「空気のない状態」であることだ。


「空気」という流体の流れが風だから、空気のない真空において魔獣神王の吐き出した毒のブレスは俺たちには絶対に届かない!


 ──って、思い出した記憶がそう教えてくれた。ありがとう俺の記憶!


【ロックよ! お主と同じ名のスキルはいつまで持続できる!?】


「俺が解錠アンロックしないまで一生だよ!」


【フハハハ!! なるほど、やはりお主はイカれておる!!】


 正面に真空の壁を展開したことで、毒のブレスから身を守ることに成功した。

 だが、逆に言えばアイザの攻撃手段も奪ったことになる。

 

 彼女もまた炎のブレスを吐き出して攻撃するため、今のままだと魔獣神王に攻撃することができない。

 ならばと、アイザは翼を折り畳み、地上めがけて急降下する。


GAUガウッ!! GAUガウGAUガウ!!】


【フフ、お主も興奮しておるのか? まぁそうじゃろうな。久しぶりに外に出たかと思ったら、ワケのわからんスキルを持つ人間に遭遇したのじゃから!!】


 急降下しながら、アイザは身を正面に翻して、巨大な尻尾をムチのように振り下ろす。

 

 速さ的に直撃してもおかしくはない。

 しかし魔獣神王は凄まじい速度でその場から移動し、その場に残されたのはアイザの一撃によって生み出された地面の亀裂のみだった。 


【流石はケルベロス。逃げ足が早いわ】


 再び飛び上がり、魔獣神王から距離を取るが、その瞬間を狙っていたのかまたもや二つの首から毒のブレスを吐き出してくる。

 

 俺はその瞬間、再び空気を施錠ロックして圧縮し、真空の壁を生み出して毒による攻撃を防ぐ。

 だがこのままだと、無駄な攻防を繰り広げるだけで何の進展もない。


「この距離からでもいけるのかな……?」


 空中にいる俺たちと、地上にいる魔獣神王。何十メートルも離れていることから、俺は直接スキルを魔獣神王に行使することはしてこなかった。だが──


「ものは試しだ。やってみるか」


 そう口にしながら、視界の先で毒のブレスを吐き出している魔獣神王に【施錠ロック】と告げる。

 するとその瞬間、無数の光輪が魔獣神王の全身、そして口元を塞ぐようにして展開された。


GAUガウッ!?】


 動くことができなくなった魔獣神王は、うめき声をあげてその場に倒れ伏した。

 

 ズシンッ!とした音を響かせながら倒れた魔獣神王を見下ろしながら、アイザは口をぽかんと開けた状態で空中に止まった。


【……ロック。ここから地上までどれだけ離れておると思っとるんじゃ?】


「あー、だいたい10メートルくらいじゃない?」


 竜化したアイザのギョロリとした瞳が、適当に答える俺をジッと睨みつけてくる。

 やめて。そんな目で睨みつけないで。俺だってできるとは思ってなかったんだから……!


「もしかすると、俺が認識さえしていれば、それだけでスキルの発動が可能なのかもしれないな」


【なにそれ怖……】


 長い首をグッと遠ざけるアイザは、いかにも「早く肩から降りてくれない?」という視線を向けてくる。

 

 そんな人を化け物みたいに……。言っとくけど、お前らの方がよっぽど化け物だからな!?


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