第2話 解錠師、街を出る。



 翌日。

 

 昨日の帰り道に買った回復薬ポーションのおかげで、傷口は綺麗さっぱり消えていた。

 

 それを鏡の前で確認しながら、俺はこれまで寝泊まりをしていた宿を出る。


 

 そしてすぐに【正義の剣】に到着した俺は、早速受付嬢のシロエに説明し、ギルド登録を解除しに来たことを伝えた。



「ええ!? ロックさん、ステラ王国から出て行くんですか!?」



 仲が良かった受付嬢のシロエが、その話を聞いて大袈裟に声をあげた。



「シロエ、声が大きいって。別に国から出るワケじゃない、王都から離れるだけさ」


「同じですよ!! というかロックさんは王選冒険者ですよ!? それなのに自分の都合で不当に解雇だなんて……あの人、やっぱり頭おかしいですって!」



 声を荒げて怒ってくれるシロエに、俺は少しだけ申し訳ない気持ちになる。

 

 けど、このまま街にいるとどうしてもガレスと鉢合わせることになる。


 俺としてはもう二度とアイツの顔を見たくなかった。今すぐにでもここを出たいくらいだ。



「ギルドの登録解除、それと馬車の手配を頼めるかな? すぐにでも出たいんだ」


「う〜……そう言われてしまっては仕方ないですね……」



 しょんぼりと肩を落とすシロエが、すぐに【正義の剣】のギルドマスターに伝えに行く。するとものの数分……いや、数秒でギルマスが俺の前に駆け出してきた。すごい勢いだ。



「ロック様ァァ!! お待ち下さい!! ギルドを抜けるなんて冗談ですよね!?」


「いや、冗談じゃなくて本気だけど……」



 とてつもない圧で詰め寄ってくるギルマスに、俺は少しだけたじろいでしまう。

 

 かつては有名な冒険者だったらしく、引退してから十数年以上経過しているのに、彼の体躯は非常に大きく、それでいてかなり引き締まっている。

 

 それもあってか圧力と迫力がすごい。怖いから少し離れて欲しいんだけど……。



「なりませんッ!! なりませんぞロック様ッ!! あなたはステラ王国が国王、アルマ様に認められし王選冒険者なのですから!!」



 ぐいッ、と鼻息を荒くしながら顔を近づけてくるギルマス。うん、だから近いって。



「そうは言ってもな……。昨日ガレスから『お前は追放だ!』って言われたしな」


「追放って、それこそ冗談では!? あなたは【解錠師】ですよ!? 迷宮ダンジョン攻略において、あなた程に適したスキルの持ち主はおりません!!」



 ギルマスが目を充血させながら熱く語ろうとしてくれるけど、俺は手で制しながら落ち着かせた。

 

 彼の言う通り、俺の解錠師スキルほどダンジョン探索に適したスキルはないと思ってる。



 俺の持つ【解錠師】のスキルは、俺とキー師匠しか持たない特殊能力ユニークスキルだ。


 このスキルの効果は、『ありとあらゆるモノを解錠アンロックすることができる』というものだ。


 例えば錆びついて開かない扉は「解錠アンロック」と言うだけで、簡単に解錠することができる。

 

 他にはダンジョンに隠された宝箱や、ダンジョンが生成したトラップなんかも簡単に解錠アンロックすることが可能なのだ。


 俺はこの力を使ってガレス達が罠に引っかからないようにしたり、開かずの扉を開けたり、宝箱を開けてダンジョン内にあるレアアイテムをゲットしたり、色々と貢献してきた。

 

 まぁ、それでも結局追放クビにされたワケだけど。



「ここ最近は【盗賊職】や【解錠の魔法】もある。俺が追放されるのも時間の問題だったんだよ。それに、もう既に盗賊業の冒険者を雇い入れてるって言ってたし」


「ええ!? そんなの聞いていませんぞ! シロエ、何か聞いているか!?」


「聞いてないですよ! ……これ、ガレスさんギルド規定破っちゃってませんか?」



 ガレスからそんな話を聞いていないと慌てる二人。


 昨日の今日だし、聞いてなくて当然だと思う。



「まぁでも事実だし。俺としてはこれ以上この街にはいられないし、いたくもないんだ。もしアルマ国王から何か言われたら、全部ガレスがやりましたって伝えておいてくれ」


「あっ! ロック様! お待ちください!! ロック様ァァァァ!!」



 俺はそう言い残して【正義の剣】を出た。

 

 馬車を呼んでもらうつもりだったけど、このままだとギルマスにずっと詰められていただろうし……仕方ない、徒歩で向かうか。

 


「さて、目指すは王都外にある村だ。確か駆け出しの冒険者たちが集うギルドがあったはず。そこに行って、また一からやり直すぞ!」



 ギルドを出た俺は、「ぞいっ!」と腕をぐっと握り締め、王都外にある村を目指して出発したのだった!




 

 ☆★☆★ ☆★☆★ ☆★☆★ ☆★☆★




 

「……行っちゃいましたね。ロックさん。マスター、これどうしましょうか?」


「どうもこうもない……! 急いで国王に知らせなければ……!」



 足早に出て行ったロックの背中を見送る、受付嬢とギルドマスター。

 

 いち冒険者がギルドを抜けるというのは、何もおかしい話ではない。


 受注されるクエストや、それによって発生する報酬等で「合う・合わない」という話は、嫌でも出てくるからだ。


 故に一人の冒険者を見送ることはそんなにおかしい話では無いのだが……それは、相手が普通の『冒険者』であった場合の話だ。



「ああああ……! クソッ、ガレスのヤツなんてことを……! パーティリーダーからの正式な『追放勧告をされた』と言われてしまえば、我々ギルドでは呼び止める事が出来ないと言うのに……!」



 頭を抱えて項垂れるギルドマスター。

 

 ギルドに登録する冒険者は、基本的にパーティ入りが推奨され、パーティ内での決定権は、当然『パーティリーダー』が持つことになる。

 

 そのリーダーが決めたことに対して、ギルド側は干渉することができない決まりとなっていた。


 

「マスター、うなだれてる場合じゃないですよ! 早く国王に知らせないと……!」


「……そうだな。クソ、ガレスめ! 次来たときは一発と言わず十発くらいブン殴ってやる……!」


「それ新たな火種産むからぜったいにやめてくださいよ!?」


 


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