クラス序列最下位の俺が、学園の《禁断の序列遊戯》を終わらせる方法?

天照ラシスギ大御神

クラス序列最下位の俺が、学園の《禁断の序列遊戯》を終わらせる方法?

 教室の隅、そこが俺の定位置だった。

 橘アスマ。私立星詠学園高等部一年。

 この学園では、生徒一人ひとりが発現する《スキル》によって、カーストが明確に存在する。

 そして俺のスキルは――【物体移動(1g限定)】。

 消しゴムのカスをちょっと動かせる程度の、文字通りのゴミスキルだ。


 今日もまた、クラスのリーダー格である赤城シュウトに取り巻きたちが集まっている。

 彼のスキルは【炎熱操作(パイロキネシス)】。学年でもトップクラスの強力なものだ。

 「おいアスマ、また教科書忘れたのか? 俺の炎で温めてやろうか?」

 赤城がニヤニヤしながら、指先で小さな火球をちらつかせる。

 周囲からクスクスと嘲笑が漏れる。これが俺の日常。抵抗する気力も、もう湧かない。


 放課後、俺はいつものように生徒会室の雑用を押し付けられていた。

 生徒会長の姫宮アカリは、学園のアイドル的存在だ。

 彼女のスキルは【絶対治癒(パーフェクトヒール)】。その力とカリスマ性で、誰もが彼女を慕っている。

 「橘君、いつもありがとう。これ、よかったら」

 会長はそう言って、高級そうなクッキーを差し出してくれた。この学園で唯一、俺を普通に扱ってくれる人だ。


 その夜、俺は偶然、学園の裏手にある旧校舎に迷い込んでしまった。

 そこで行われていたのは、《ナイトメア・デュエル》と呼ばれる非合法なスキルバトルだった。

 闇に紛れて、生徒たちが己の欲望とプライドを賭けて戦っている。

 「見ちゃったからには、参加してもらうぜ、ゴミスキル君?」

 背後から声をかけてきたのは、昼間の赤城だった。彼の目は、普段の教室で見せるものとは違う、獣のような光を宿していた。


 抵抗する間もなく、俺はリングに立たされていた。

 相手は、巨漢の三年生。スキルは【筋力増強(マッスルブースト)】。

 「1gしか動かせないお前が、何ができるってんだよ!」

 嘲笑と共に、岩のような拳が俺に迫る。

 ああ、終わった。そう思った瞬間だった。


 ――死にたくない。

 その強い思いが、俺の中で何かの蓋をこじ開けた。

 【物体移動(1g限定)】。

 俺はずっと、このスキル名を誤解していたのかもしれない。

 1gの「物体」を「移動」させる。違う。

 1gの「概念」を「移動」させる……?


 目の前の巨漢が振り下ろす拳。その拳の「重さ」という概念。

 もし、その「重さ」を、1gだけ、相手の身体の別の場所に「移動」させることができたら?

 例えば、相手の小指に、拳全体の「重さ」を集中させたら?

 「ぐあああああっ!?」

 巨漢が突然、自分の小指を押さえて叫び声を上げた。まるで、小指にトラックでも衝突したかのような苦悶の表情だ。


 俺は、自分のスキルがただの【物体移動(1g限定)】ではなく、【概念転移(コンセプト・シフト):限定条件下における対象の物理法則への局所的介入】のダウングレード版、あるいは未覚醒状態だったことに気づいた。

 1gというのは、俺が一度に干渉できる「概念の最小単位」の質量換算値だったのだ。

 俺は「重さ」だけでなく、「硬さ」「速さ」「存在確率」すらも、限定的に操作できるのかもしれない。

 物語キーワードである【概念転移】の片鱗を見せた瞬間だった。


 その日から、俺の学園生活は一変した。

 《ナイトメア・デュエル》で勝ち進むうちに、俺は「名無しのジョーカー」と呼ばれるようになった。

 誰も俺の正体を知らない。知っているのは、対戦相手のスキルを不可解な形で無力化する、謎の能力者ということだけ。

 「アスマ君、最近何かいいことでもあったの?」

 幼馴染の桜井ミオが、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。彼女のスキルは【未来予知(短時間限定)】。何かを感じ取っているのかもしれない。

 「別に、何も」

 俺は曖昧に笑って誤魔化すしかなかった。


 そんな中、生徒会長の姫宮アカリが、何者かに襲撃される事件が起きた。

 彼女の【絶対治癒】でも回復が遅れるほどの重傷だった。

 「許せない……会長をこんな目に遭わせた奴を、俺が見つけ出す」

 俺は決意した。俺の【概念転移】を使えば、あるいは。

 現場に残された微細なエネルギー痕跡。その「属性」という概念を、俺は読み取ろうと試みた。

 「これは……赤城の【炎熱操作】じゃない。もっと歪で、冷たい……」


 俺は《ナイトメア・デュエル》の情報を辿り、ついに黒幕に近づいていく。

 その過程で、俺のスキルを狙う謎の組織「アルカナ・コレクターズ」の存在も明らかになった。

 彼らは強力なスキルを持つ生徒を攫い、その力を抽出しているという。

 「君のスキルは実に興味深い。是非、我々のコレクションに迎えたいものだ」

 フードを被った男が、俺の前に立ち塞がった。


 戦いの中、俺はミオに助けられる。

 「アスマ君、知ってたよ。君が頑張ってること。私も一緒に戦う!」

 ミオの【未来予知】は、俺の【概念転移】と組み合わせることで、驚異的なシナジーを生んだ。

 彼女が危険を予知し、俺がその危険の「概念」そのものを操作して回避する。

 「まさか、あの桜井さんが協力するなんて……アスマ様、やはりあなたは只者ではない」

 以前俺を馬鹿にしていた生徒の一人が、尊敬の眼差しで俺を見ていた。社会的証明の一つだ。


 そして、ついに俺は姫宮会長を襲った犯人と対峙する。

 その正体は、誰もが予想しない人物だった。

 「残念だったね、アスマ君。君のスキルは、私がいただくよ」

 そこに立っていたのは、いつも穏やかで優しい笑みを浮かべていた……桜井ミオだった。

 「なっ……ミオ!? どうして……」

 俺は言葉を失った。一番信じていた幼馴染の裏切り。


 ミオは悲しそうに微笑んだ。

 「ごめんね、アスマ君。でも、こうするしかなかったの。私の本当のスキルは【未来予知】じゃない。【他者スキル強奪(スキル・プレデター)】なのよ」

 彼女は、自分の家族を「アルカナ・コレクターズ」に人質に取られ、協力させられていたのだ。

 姫宮会長を襲ったのも、会長の【絶対治癒】を奪うためだった。そして次のターゲットが、俺の【概念転移】だった。

 「嘘から出た真実ってやつかな。君と一緒に戦ううちに、本当に君のことが……」

 ミオの目から涙がこぼれた。


 絶体絶命のピンチ。しかし、俺は諦めなかった。

 「ミオ……お前がどんなスキルを持っていようと、お前はお前だろ!」

 俺はミオの「スキル強奪」という概念そのものに干渉しようと試みた。

 対象の「所有権」という概念を、1gだけ、俺からミオへ「譲渡」する。ただし、それは俺のスキルの「一部」ではなく、「俺との絆」というダミーの概念情報だ。

 「これは……何なの……?」

 ミオが俺のスキルを奪おうとした瞬間、彼女の脳裏に流れ込んできたのは、俺との思い出の数々だった。


 その隙に、俺はミオを拘束していた「アルカナ・コレクターズ」のボスに迫る。

 ボスのスキルは【絶対命令】。逆らうことは不可能に近い。

 だが、俺は命令の「絶対性」という概念に疑問符をつけた。

 1gだけ、その絶対性を「揺らがせる」。

 「なぜだ……私の命令が……!?」

 ボスは初めて狼狽の色を見せた。俺はその隙を逃さず、ボスの戦闘能力の「基盤」という概念を1gだけ「消去」した。

 ボスは崩れ落ち、組織は壊滅した。


 事件解決後、ミオは自らの罪を償うため、学園の管理下に置かれることになった。

 「アスマ君、ありがとう。そして、ごめんなさい」

 「気にするな。またいつか、一緒に笑える日が来るさ」

 俺はそう言って微笑んだ。

 姫宮会長も無事に回復し、学園には平和が戻った。

 俺の【概念転移】は、まだ多くの可能性を秘めている。この力で、俺は大切な人たちを守っていく。

 そして、いつかミオが本当に自由になれる日まで。

 教室の隅の席は、もう俺の定位置ではなかった。俺の隣には、新しい仲間たちの笑顔があった。

 ――もし君が、たった1gだけ何かを変えられるとしたら、何を変えたい?




アスマの覚醒、そして衝撃の展開、楽しんでいただけましたか?『面白かった!』『スカッとした!』と感じたら、ぜひ画面下のハート❤をタップしてください!レビューや感想コメントで『このスキルの使い方が見てみたい!』『犯人は最初から怪しかった!』など、あなたの声を聞かせてくれると、アスマの次の概念が覚醒するかも!?作者フォローもしていただけると、学園に平和が訪れます! あなたならアスマのスキル【概念転移】をどう使いますか?ぜひ教えてください!

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