最強の暗殺者は隠れない。~目立ちすぎるからと組織を追放されたけど、いっそのこと好き勝手にやりたいと思います~
あざね
オープニング
プロローグ その暗殺者、あまりにも派手。
「シオン! お前はもう、ふざけんなよ!!」
「はぁ? なんだよ、急に……」
暗殺者組織【毒蛇の牙】のアジトに、似つかわしくない怒号が響いた。
声を上げたのは全身黒装束の男性。見るからに暗殺者といった印象を受ける出で立ちで、これなら闇に紛れるのも容易だろうと思われた。そんな彼の向かいにいるのは、おそらくは部下と思しき青年。
強い叱責を受けるシオンと呼ばれた彼は、あからさまなまでに面倒くさそうにしながら頭を掻いていた。
「急に、じゃない! 今回の任務だってなんだ!?」
「あー……あの、しみったれた貴族のおっさんの暗殺か? まったく、地味で辛気臭いったらありゃしない」
「地味に決まってんだろ、俺たちは暗殺者だっての!!」
そんな態度はいつものことなので、男性もあえてツッコまない。
問題なのは、その任務でのシオンの行動らしく……。
「なんで部屋を吹き飛ばす必要があるんだ!? あんなの普通、暗殺者がやることじゃないっての!!」
――男性が激怒するのも、さもありなん。
事が起こったのは、現在より数刻前。
とある貴族の暗殺指令の下った彼らは、闇に紛れてその者の屋敷へ侵入した。首尾よく寝込みを襲うところまで行けたのは良かったのだが、そこで問題行動を起こしたのはシオン。
彼は何を思ったか、暗殺対象の貴族を叩き起こして言ったのだ。
『おう、貴族のおっさん! 俺と一戦交えようぜ! アンタが勝てたら、今日のところは見逃してやる!!』――と。
相手も、仲間も、誰もが呆然。
もちろん貴族の男に戦闘能力はないので、即座に逃亡を図られてしまう。その時にシオンが取った行動こそ、部屋全体を魔法で爆破することだった。
屋敷の主の一室から聞こえた轟音に、他の住人、給仕などは目を覚ます。
そして一斉に駆け付けようとしたところ、暗殺者たちは全速力で逃亡していまに至るのであった。
「あっはっは! ありゃ傑作だったな!!」
「傑作じゃねぇ!? 危うく組織の存在から何まで、バレるところだったわ!!」
しかしシオンは悪びれる様子もなく、腹を抱えて大声で笑う。
そんな豪快な彼に声を荒らげる上司の暗殺者は、肩で息をしながらさらに続けた。
「――というか、今更だけど! お前の服はなんだよ! 隠れる気あんのか!?」
「お、やっとツッコんでくれたか! 昨日、新調したんだよ。似合ってるか?」
「あぁ、うん。似合ってるかで言えば、とても――じゃねぇよ! 暗殺者が真っ赤な服を着てどうする!? 妙に肩の部分がはだけてるのも、意味わかんねぇ!!」
さて、ここでシオンの出で立ちを確認しよう。
青年はまず、素顔を隠すことを一切していない。生来の金と赤の入り混じった髪を腰近くまで伸ばし、傷一つない端正な顔立ち。鋭い蒼の眼差しは多くの女性を虜にすると思われた。そしてツッコまれた服装はというと、これがまた見事なまでの『赤の東国衣装』である。袴というものらしいが、両肩をはだけさせているあたり、彼なりに気崩しているのは明らかだった。
似合っているかどうか、でいえば、かなり似合っている。
だが少なくとも、暗殺者が任務の際に着用する、というものではなかった。
「いいじゃねぇか、別に。固定観念ってのは、ぶち破ってこそだぜ?」
「お前それ、せめて一度でも忠実に掟を守ってから言えよな?」
手をひらひらとさせ、ニヤニヤと答えるシオン。
そんな彼に、上司の暗殺者もいよいよ限界のようだった。微かに見えるこめかみに、青筋がいくつも走っている。
そして、ついに――。
「もう一度、改めて言うぞ!? お前は今日をもって、この組織から追放だ!!」
突き付けられた追放処分。
これには、さしものシオンも動揺するかと思われた。――が、
「あいよ、了解! こんな地味で陰気な場所、こっちから出て行くぜ!」
なんともカラッとした笑顔で。
青年は仲間たちに背を向け、アジトを出て行くのだった……。
――
やべー主人公が、誕生してしまった。
面白かった、続きが気になる、更新頑張れ。
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