学園タイムリープ!冴えない俺が送る「100回目のファーストラブ」

天照ラシスギ大御神

学園タイムリープ!冴えない俺が送る「100回目のファーストラブ」

 「…また、この朝か」


 目覚まし時計のけたたましい音で、俺、桜井樹は現実(という名の悪夢)に引き戻された。9月28日、金曜日。文化祭前日。何度目だろう、この日を迎えるのは。正確にはもう数え切れない。たぶん、30回は超えている。


 原因はわかっている。俺が、クラスのマドンナであり、文化祭実行委員で一緒に準備をしてきた雪村詩織に、告白できずにいるからだ。昨日、つまり「最初の9月28日」の放課後、勇気を振り絞って告白しようとした。だが、緊張で声が震え、言葉が出てこず、結局逃げるように帰ってしまった。その瞬間から、俺の時間はループしている。


 「おはよう、樹君。今日も早いね」

 教室に入ると、雪村さんが笑顔で声をかけてきた。この笑顔を見るたびに、胸が締め付けられる。彼女は俺がループしていることなんて知らない。毎日、初対面のように接してくる。


 最初の数回はパニックだった。だが、今はもう慣れた。というか、諦めに近い感情だ。どうせ何をしても、明日は来ないのだから。


 いっそ、このループを利用して、完璧な告白シチュエーションを作り上げてやろうか。そんなことも考えた。

 ループ5回目。人気のクレープ屋に誘ってみた。→「ごめん、今日は準備で忙しいの」と断られた。

 ループ10回目。花火をバックに告白、なんてロマンチックな展開を夢見て、放課後、学校の屋上に呼び出そうとした。→鍵がかかっていて入れなかった。

 ループ15回目。い 차라리 ストレートに「好きです!」と言ってみた。→雪村さんは驚いた顔をして、そして「ご、ごめんなさい…」と。これが一番堪えた。


 それ以来、俺は告白するのをやめた。ただ、淡々と文化祭の準備を手伝い、雪村さんと当たり障りのない会話をし、一日が終わるのを待つ。そしてまた、同じ朝を迎える。


 「桜井君、そこのダンボール運ぶの手伝ってくれる?」

 雪村さんの声で、俺は我に返った。

 「あ、うん。いいよ」

 二人でダンボールを運んでいると、彼女がふと呟いた。

 「文化祭、楽しみだね。成功するといいな」

 「…そうだね」


 彼女は本当に文化祭を楽しみにしている。キラキラした目で準備に取り組んでいる。そんな彼女を見ていると、俺のせいでこの楽しい時間が永遠に完成しないんじゃないかと、罪悪感に苛まれる。


 ループ20回目くらいだったか。ヤケクソになって、普段は絶対にしないような大胆な行動をとってみた。例えば、授業中に突然立ち上がって熱唱するとか、校庭のど真ん中で奇声を上げるとか。だが、何をしても世界は変わらず、ただ俺だけが虚しさを募らせるだけだった。


 そんなある日のループ。それは確か、28回目の9月28日だった。

 いつものように準備を手伝っていると、雪村さんが少し顔色が悪いことに気づいた。

 「雪村さん、大丈夫? なんか顔色悪いけど」

 「え? ああ、うん、平気だよ。ちょっと寝不足なだけ」

 彼女はそう言って笑ったが、その笑顔はどこかぎこちなかった。


 放課後、俺は一人で準備の残りを片付けていた。すると、教室の隅で小さな手帳が落ちているのを見つけた。表紙には「S.Y」とイニシャル。雪村さんのものだ。


 見てはいけないと思いつつ、好奇心に負けて中を開いてしまった。そこには、彼女の直筆で、文化祭の準備のタスクやアイデアがびっしりと書かれていた。そして、最後の方のページに、こんな一文があった。


 『桜井君と、もっと話せたらいいな。でも、勇気が出ない』


 え…?


 俺は目を疑った。雪村さんが、俺のことを…? まさか。これは何かの間違いだ。

 でも、もし本当だとしたら?


 そのループでは、俺は何もできなかった。手帳のことが頭から離れず、結局いつも通り一日が終わり、また9月28日の朝が来た。


 だが、今回は違った。俺の中に、小さな希望が芽生えていた。


 29回目の9月28日。俺は、いつもより少しだけ積極的に雪村さんに話しかけてみた。

 「雪村さん、その髪飾り、可愛いね」

 「えっ、あ、ありがとう…これ、昨日買ったんだ」

 彼女は少し照れたように笑った。その反応が、今までとは違うように感じた。


 もしかしたら、ループの原因は俺の「告白失敗」だけじゃないのかもしれない。俺が彼女の気持ちに気づかず、一方的に壁を作っていたことも、関係しているんじゃないか?


 その日の放課後。俺は雪村さんを誘った。

 「雪村さん、もしよかったら、帰り道、少し話さない?」

 彼女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに「うん、いいよ」と頷いてくれた。


 二人で並んで歩く帰り道。夕日が綺麗だった。

 「あのさ、雪村さん」

 俺は勇気を振り絞った。

 「俺、ずっと雪村さんのことが…好きでした」


 心臓がバクバクしている。また「ごめんなさい」と言われるかもしれない。でも、今度は逃げない。


 雪村さんは立ち止まり、俯いてしまった。

 「…私も…」

 小さな声だった。

 「私も、桜井君のことが、ずっと気になってたの。でも、なかなか言い出せなくて…」


 顔を上げた彼女の頬は、夕日よりも赤く染まっていた。


 その瞬間、世界がキラキラと輝き出したように感じた。

 そして、俺のポケットの中で、スマートフォンが震えた。見ると、画面には「9月29日 土曜日」と表示されていた。


 ループが、終わった。


 「桜井君、明日、文化祭、一緒に回らない?」

 雪村さんが、はにかみながら言った。

 「うん、もちろん!」

 俺は、今度こそ、最高の笑顔で答えることができた。


 繰り返す毎日の中で、俺が見つけたのは、彼女の意外な一面と、そして何より、一歩踏み出す勇気だった。地味で冴えない俺が送った「たくさんのファーストラブ」は、ようやく本当のスタートラインに立ったのだ。


 明日は、きっと最高の文化祭になる。彼女と一緒に。




最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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